アベノミクスは妥当だが第三の矢は懐疑的

さて、大震災から立ち直りつつある日本にとって、手ごわい敵がまだ残っている。デフレ不況である。そのための特効薬がアベノミクスだ。これまで株価や物価が順調に上がり、「13年4月から2年以内に2%の物価上昇率を達成」という目標が達成できるかと思いきや、消費増税の影響もあって夏ごろから腰折れ感が目だってきたところ、この10月末に日銀が再び大規模な金融緩和の実施を発表したのはご承知だろう。ピリングはアベノミクスに対しては好意的だ。

「デフレは日本経済にとって諸悪の根源です。その効果的な退治方法はない、というのがこれまでの定説でしたが、安倍首相はそれを否定し、第一の矢である金融緩和と、第二の矢である財政拡大を断行した。その効果が薄れてきたとみると、日銀の黒田東彦総裁がすかさず再度の緩和を決めた。アメリカのFRBが緩和を停止したのとほぼ同じタイミングで、まるで逆の施策を打ったわけです。何が何でもデフレを退治するという意思が感じられ、評価できます。と同時に、ここまでやったら、もう後戻りはできないということも明白になりました」

ただ、第三の矢、つまり成長戦略に対しては懐疑的だ。市場開放や規制緩和、構造改革などがその主要策となるが、それらを断行するとインフレではなく、デフレが加速し、元の木阿弥になる、というのが第一の理由だ。

「第二の理由もあります。イギリスで大きな痛みを伴う構造改革を行ったのがサッチャー首相(当時)です。これによってイギリス経済が蘇ったと言われていますが、ある試算によると、サッチャー改革をもってしてもイギリスの生産性はたった0.5%しか上がらなかったと言われています。つまり、法人税減税や労働市場改革など、成長戦略として議論されている施策を実行したとしても、生産性が大きく改善し、飛躍的成長が必ず実現できるわけではありません」

経済面では消費税の増税という問題も立ちふさがる。それはGDPの2倍以上に膨れ上がった巨額の財政赤字をどうするか、という難題に直結している。経済成長、財政再建、どちらを優先させるべきだろうか。