なぜ高齢ドライバーは免許を自主返納しないか

最近、高速道路を逆走したり、ブレーキとアクセルを踏み間違えたりする事故のニュースをよく聞きます。そのドライバーのほとんどが高齢者です。こうした現状への対応策なのでしょう。この1月、警視庁は高齢ドライバーに対する免許制度の改正を発表しました。

これまでも75歳以上の高齢者が免許を更新する際、講習予備検査を受けることが義務づけられていました。認知機能を検査するもので、当日の年月日を質問したり、何種類かのイラストを見せて何が描かれていたか答えたりするといったもので、その結果によって「認知症の恐れがある」、「認知機能が低下している恐れがある」、「低下している恐れはない」の3段階に判定されます。

ところが最も重い「認知症の恐れがある」と判定された場合でも、過去1年間に逆送や一時停止違反といった違反がなければ免許は更新できました。そこで、今回の改正案は、認知症の疑いがある場合は医師の診断を義務づけ、認知症と判断されれば、免許取り消しとすることになりました。ただ講習予備検査は簡単なものですから、その時だけしっかりしていれば、判定をすり抜けてしまう可能性もあります。

警察では高齢者に対する運転免許の自主返納を奨励しています。自主返納した人には免許証と同様の「運転経歴証明書」を発行。ドライバーだったことのプライドを満たすと同時に、この証明書の提示によって様々な割引が受けられるという優遇措置もあります。

しかし、高齢者の多くはベテランドライバーであり、運転には自信を持っていたりする。また、クルマがないと生活できない地域に住んでいれば、返納に踏み切れないといったケースもあるでしょう。

警視庁の統計によれば、75歳以上の免許保有者数は約425万人(2013年末時点)。そのうち約27万5000人~70万6000人が認知症と推計されるとのことです。数値の幅が統計とは思えないほど広いのは、“ここからが認知症”という境目が明確にならないからでしょうが、いずれにしても、数十万人の認知症ドライバーは今日も道路を走っていることになる。

今後、社会の高齢化が進めば、そういう人はさらに増える。考えてみれば恐ろしいことです。目の前を走っているクルマ、すぐ後ろにいるクルマのドライバーが認知症かもしれないわけです。