創業期と業績拡大期に求められる人材

1997年に金融危機が本格化し、不良債権を抱え込む銀行や証券会社が次々と経営破たんをする。日本債券信用銀行や日本長期信用銀行なども、同じ道をたどる。「今度は、興銀か」と当時、騒がれていた。山田氏は、「経営破たんしたとしても、敗戦処理を含め、最後まで働こう」と思っていたという。

「私にとっては、いい銀行でした。上司は厳しかったのですが、よく教えてくれました。しかし、1999年に3行統合を発表し、第一勧業銀行と富士銀行と、興銀が1つになることを知りました。これで考えが変わったのです。残るも(第一勧銀や富士銀への)転職であり、退職するも転職。興銀に残る意味を見出すことが難しくなったのです」

2000年、興銀を辞めることにした。大きな不安はなかったようだ。それ以前から、取引先であるいくつものベンチャー企業から誘われていた。山田氏は「捨てる神もあれば、拾う神もいると思っています」と淡々と振り返る。

入社したのが、サイボウズだった。早々に取締役になる。当時の社員は、15人。新卒を採用しようとしても、東大を始め、高偏差値の大学の学生はほとんどエントリーしなかったようだ、

「この頃は、例えば、東大を卒業し、総合商社の内定を蹴ってサイボウズに来たのに……と言い、不満を口にするような人はいらないのです。創業期であり、社内の体制もぐちゃぐちゃになっていますから、理屈抜きに、ここで覚悟を決めて仕事をしようといった思いの人が欲しいのです。もちろん、仕事をするうえで考える力は必要です。しかし、理屈を唱えたり、言い訳をしているだけの人はこのステージでは戦力にならないのです」

その後、サイボウズはグループウェアが大ヒットし、業績を拡大し、社員の数が増えていく。山田氏も副社長となり、主に人事、経営管理、内部統制部門などを担当する。この頃から、社員の中には高学歴な人が目立つようになる。これは、躍進するベンチャー企業によくみられる傾向だ。このことを尋ねると、山田氏は答える。

「規模が小さいときは、よしいくぞ! という精神主義的なものでなんとかなることもありました。規模が大きくなると、戦略などをち密に考える必要があります。リスクなども計算しないといけないですね。管理職になり、30~40人のチームを動かすこともあります。当然、状況に応じたうえでのコミュニケーションが必要になります。つまり、考える力が求められるのです。規模が大きくなったとき、この考える力を身に付けた社員が少ないままで、組織がきちんと動くことは難しいと思います。

考える力があるか否かを判断する、1つの材料が新卒時では学歴なのではないでしょうか。ただし、私たちは学歴だけをみて採用することはしていません。例えば、東大を卒業しているからといって、それだけで内定を出すことはしていないのです。その人がうちで活躍できると思うからこそ、雇うのです」