序列が緩いと争いが起きやすい

高尾山さる園の現ボスザル・ネッシン(中央下)。喧嘩の仲裁で体は傷だらけ。写真右奥の木を囲う柵には電気が流れているが、中に子ザルが落ちたとき、電流を浴びながら助け出したのは母ザルではなくネッシンだった。

では、リーダー就任後の優劣は何で決まるのだろうか。青木さんは、「喧嘩のさばき方如何で決まる側面が強い」という。喧嘩をうまくさばくことが、リーダーの力を誇示することになるからだ。そして、オスとメスのリーダーシップの相違は、この力の誇示に象徴的に表れるという。

「はっきり言って、メスがリーダーのときは小競り合いが多い。なぜなら、メスはオスよりも警戒エリアが狭いからです」

サル山の順位とは餌を食べる順番のことであり、1位のサルは最初に食べ始めて満腹するまで餌を独占できる。オスのリーダーの場合、下位のサルが餌を横取りしに接近してくるとすかさず撃退するが、メスのリーダーは相当近くまで寄ってこない限り撃退しない。

こうしたメスのリーダーの特徴を人間になぞらえれば、「メスのリーダーは上下関係にこだわらないリベラルな思想の持ち主だ」ということになるのかもしれない。飼育する側の観点からも、餌が群れ全体に行き渡りやすいという利点もある。しかし、序列感覚が緩いがゆえに下位のサル同士の衝突を誘発しがちな面があり、しかも喧嘩の仲裁にも積極的でないため、群れが不安定に陥りやすい。

「無駄な争いをなくすためには、リーダーが力を誇示するとともに、上位から下位までの序列を明確にしたほうがいいのです」(青木氏)