サルの群れには、「ボス」と呼ばれる存在のサルがいる。その適切な呼び方については様々な意見があるが、一般的にボスザルとは、群れの中で力を誇示し、真っ先に餌にありつけるサルのことだ。

ところで、動物園などの飼育環境下では、このボスザルにメスが“就任”することがある。たとえば、80年の歴史を持つ上野動物園のサル山では、これまでに15匹のリーダーが誕生しており、そのうちメスは5匹。高尾山さる園でも、5匹のうち1匹がメスだ。ボスに就任するメスは、どんなタイプのボスなのだろうか。

「親の七光り」か「下克上」か

そこでまず、ボスザルがどのような基準で“選ばれる”のかを見てみよう。

恩賜上野動物園でニホンザルの飼育を担当している青木孝平さんによると、サル山のボスザルになれるかどうかを決めるのは、大きく「血縁・家族関係」と「喧嘩」というふたつの要素だという。人間界で言えば「七光り」と「下剋上」といったところだろうか。

前者の例で象徴的なのが、5代目リーダーのハサン(メス)、6代目のシサシ(オス)、7代目のシラハマ(オス)の時代である。まず、強い血筋に属するメスのハサンが4代目ノッポ(オス)の死によってトップに立った。メスがリーダーになるのは、たいていがこのようなケースだ。ところが、ハサンが発情期にシサシ(オス)を熱愛したため、ハサンに代わってシサシがリーダーを務めることになる。つまり、シサシはハサンの七光りでリーダーの座を射止めたわけだ。また、シサシから兄のシラハマへの政権交代も「血縁」の典型例だ。

一方、力による下剋上もある。たとえば、9代目のロン(オス)と10代目のサトイモ(オス)のケースがそれだ。サトイモは順位の高いサルが血縁にいるわけでもなくいわばペーペーだったのだが、たまたまロンと餌の奪い合いになったとき、老いたロンがたやすく逃げの姿勢を見せたため、一気にロンを叩いてトップの座に駆け上がってしまった。このように、特にオスがボスザルになる場合、喧嘩も、順位争いの重要なエポックとなるケースが多い。