4.「最も大切な自分」は何を手がかりに知るか

ローランズはオオカミと暮らしながら、人間とは何か、愛とは何か、幸福とは何かという哲学的な思索を深めていきました。実際にローランズは、オオカミの生き様を振り返りながら、「最も大切な自分とはどのような自分か」と問いかけます。そこで出てきた答えは、あらゆる虚飾をはぎとったときの自分だというものでした。

彼にとっては、お金や名誉はもちろん、夢も幸運も欲望も虚飾にすぎません。だから幸運のまっただ中にある恵まれた状況では、人間は素の自分たりえない。幸運にも見放され、所有できるものをすべて奪われても残る自分というものが、本当の自分なんだということです。いわば、それは野性としての自分といってもいいでしょう。

サルは自分が何をどれだけたくさん持っているかで、自分を評価する。
オオカミはそうではない。持つことなどどうでもいい。オオカミとして存在することが重要なのだ。
ローランズ

いろいろな不安や不満を感じるとしても、それはサルの不安・不満にすぎません。何一つ所有する物がなくても、快活に生きることができれば幸福なはずです。お金や物を幸福と勘違いするから、人間はオオカミになることができない。野性の自分として生きることは、瞬間瞬間を充実して生きるということに尽きます。