5.人間関係をよくも悪くもさせる決め手とは?

アランは40年間、エリート高校で哲学教師を務めていた。(時事通信フォト=写真)

アランは、フランスのエリート高校で哲学の教師をしていて、その教え方もすばらしく、生徒から絶大な人気を得ていたといいます。第一次世界大戦では自ら志願兵として従軍もしている。哲学者というと、世間から本ばかり読んでいる人間に思われがちですけど、まったく違います。アランをはじめ、すぐれた哲学者は行動的です。だから、人間関係についても鋭い洞察を示すのです。

ビジネスマンは四六時中、人間関係で悩んでいるようです。たとえば、部下がいうことを聞かないとグチをこぼす上司は大勢います。

でも彼らは、なぜ部下が自分のいうことを聞かないのかわからない。だから自分の中で「あいつはこう思っているんじゃないか」と勝手に推測をして、その部下に対するネガティブな気持ちを増幅させてしまうわけです。そして、些細な行き違いにもかかわらず、思い込みを暴走させて大きな溝になってしまう。

こういう状況では、本当は、直接「なぜいうことを聞かないのか」と尋ねればいいだけの話。それなのに、多くの人は自分の予断にとらわれて、余計に関係をこじらせてしまう。人間関係の不幸は、こうした予断から生じてくるものなのです。

「こんなことをいったら、相手はこう思うかもしれない」「このメールはもしかして機嫌が悪いのかもしれない」というのは不要な判断です。どうなるかわからない結果を先取りして考えようとすると、自分の思考も行動も不自由になるだけです。

雨が降りだしてきたら、舌打ちなんかせず、軒下に出て悠然と傘を広げよう。
傘がなけりゃ、ああけっこうなお湿りじゃないかといおう。
人間関係もこの雨と同じだ。対応の仕方はいくらでもあるものだ。
要するに、自分のため、できるだけ気持ちよく過ごすためには、いやな言葉を吐いたり、いやな思いを抱いたりしてはならない。
アラン

「できるだけ気持ちよく過ごすためには、いやな言葉を吐いたり、いやな思いを抱いたりしてはならない」というアランの言葉は、感情コントロールの要諦を述べています。いっときの感情からグチや文句や独り言を口にしても、気分はさらに悪くなるだけ。いつも怒っている人は愉快に毎日を過ごすことはできません。

大切なことは物事を簡単に判断しないということです。雨が降っていたら、「雨が降っている」という事実を受け止めて、傘をさせばいい。他人の言動でおかしなものがあれば、直接問いただせばいいのです。

※言葉の出典は、すべて白取春彦氏の超訳による。

白取春彦(しらとり・はるひこ)
作家
青森市生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。ベルリン自由大学入学。哲学・宗教などを学び、1985年帰国。近著『ニーチェ 勇気の言葉』など著書多数。
(斎藤哲也=構成 若杉憲司=撮影 AFLO、時事通信フォト、AP/AFLO=写真)
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