2014年12月11日(木)

暴走する中国、東南アジアにシフトすべきか

PRESIDENT 2014年6月16日号

著者
小川 英治 おがわ・えいじ
一橋大学大学院商学研究科教授

1957年、北海道生まれ。一橋大学商学部卒業、一橋大学大学院商学研究科博士課程単位修得、商学博士。88年より同大学商学部勤務。ハーバード大学(86~88年)、カリフォルニア大学バークレー校(92~93年)でvisiting scholar。著書・訳書に『国際通貨システムの安定性』『金融経済入門』『金融リスク管理戦略』などがある。

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一橋大学大学院商学研究科教授 小川英治=文 図版作成=平良 徹
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チャイナ・リスクにどう対応するか

去る3月に経済産業研究所のヒアリング調査のためにカンボジアとミャンマーに出かけた。羽田空港から夜行便に乗り、バンコクに向かった。最初の訪問地であるカンボジアの首都プノンペンへは日本からは直行便がなく、バンコクを経由しなければならない。プノンペンでのヒアリングを終えて、次の訪問地であるミャンマーの旧首都ヤンゴンに向かったが、プノンペンからヤンゴンへの直行便は1日1便しかないため、再びバンコクを経由した。

帰路はヤンゴンから直行便で成田空港に向かうこともできたが、バンコクでミーティングがあったため、ヤンゴンからバンコクに向かい、バンコクでいったん降りることとなった。今回の出張では、バンコクのスワンナプーム国際空港に3回も降り立った。そのたびに、現代的な巨大なスワンナプーム空港を汗だくで走り回った。このようにタイの隣国間を移動しようとするときに、どうしてもバンコクを経由することが多くなる。

近年の日中間の政治的関係の悪化に伴う、中国のカントリーリスク、すなわちチャイナ・リスクの増大に伴って、それを回避したり、ポートフォリオ(リスク分散)化によって軽減しようとして、中国における生産拠点を代替する形で、あるいは、東アジアにおける生産拠点を分散化する形で、東南アジアへの直接投資が増加してきている。中国における賃金の上昇や労働争議の増加がさらにその動きを加速させている。このように、チャイナ・リスクを回避・軽減するために、中国の生産拠点を東南アジアに移す動き、およびその直接投資対象国は「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれる。その代表国がタイである。もともと潜在的な経済成長能力があったことに加えて、「チャイナ・プラス・ワン」の動きによって、タイを中心として東南アジア諸国が直接投資の対象国として高い経済成長を遂げてきている。

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東南アジア諸国の1人当たりGDP(購買力平価ベース)

一方、東アジアにおいては、各部品の生産から完成品までの組み立て生産工程が分業化され、効率的にサプライ・チェーンによって結びつけられ、東アジア域内においてクロスボーダーに生産ネットワークが構築されている。その要因には、生産工程のなかには労働集約的な工程と資本集約的な工程が混在するが、東アジア域内の各国の経済発展のスピードやタイミングの相違から、低賃金国から高賃金国までバラエティに富んだ諸国経済で構成されていることがある。

図に示されているように、東南アジア諸国の1人当たりGDP(購買力平価ベース)は、2012年においてシンガポールが最高で6万1803米ドルである。タイは1万0757米ドル。ちなみに中国が9210米ドルであるから、タイのほうが若干高い。これらに対して、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)については、12年において、カンボジアが2505米ドル、ラオスが2925米ドル、ミャンマーが1801米ドル、ベトナムが3998米ドルである。CLMV諸国はタイの一人当たりGDPの5分の1から3分の1程度しかない。

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