2014年12月25日(木)

マーケティング・リサーチは本当に必要なのか

PRESIDENT 2014年6月2日号

著者
栗木 契 くりき・けい
神戸大学大学院経営学研究科教授

栗木 契1966年、米・フィラデルフィア生まれ。神戸大学経営学部卒業、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。2012年より現職。著書に『ビジョナリー・マーケティング-Think Differentな会社たち』(共著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す-状況の思考による顧客志向』などがある。

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神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契=文 平良 徹=図版作成 時事通信フォト=写真
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収益性の高いセブン-イレブンの経営モデル

企業の現場で働く方たちとお話しする機会がある。その多くは、自分たちは科学とは縁遠い世界にいると思っておられるようだ。しかし10年単位の中長期で見れば、科学的アプローチは、着実に現代の企業経営に根を下ろし、広がり続けている。

マーケティングの領域についていえば、多くの企業人が、次のような実感をもっておられるはずだ。マーケティング・リサーチ――すなわち、消費者あるいはクライアントの心理や行動を分析するための調査手法や統計分析手法は、高度化する一方であり、ついていくのもたいへんだ。だがこうした客観性・普遍性・論理性を備えた調査結果を求める動きは、社内外で止まらない。このようにマーケティング・リサーチは、実践の現場で着実に科学としての精度を高めていっている。

今回は、このマーケティングの科学化の趨勢(トレンド)と、マーケターあるいは経営者はどのように向かい合うべきかを考えてみたい。結論を先取りすれば、議論の着地点は二刀流のすすめとなる。科学の知は経営の知を確実に前進させる。しかしマーケターや経営者のイノベーティブな思考や行動には、科学の知を超える部分がある。

『「本質直感」のすすめ。』という、一風変わったマーケティング理論書が今年の春に出版された。そのなかで、首都大学東京の水越康介氏が、興味深い問題提起を行っている。水越氏は、科学化するマーケティング・リサーチの現場を踏まえたうえで、次のような趣旨の指摘を行っている。

「優れた経営者であるほど、マーケティング・リサーチを必要としないように見える」

水越氏が真っ先に取りあげているのは、この半世紀ほどの間に、世界のエレクトロニクス業界の秩序をつくり替えてきた2人の経営者である。一人は、盛田昭夫氏、もう一人はスティーブ・ジョブズ氏。彼らは、歴史に名を残すであろう優れた経営者であると同時に、「マーケティング・リサーチをしない」と公言してきた人物でもある。

水越氏の問題提起に共感する人は少なくないだろう。だが一方で、科学としてのマーケティング・リサーチの高度化が、企業の成長と収益性の強化を支えていることも見逃してはならない。収益性の高い経営モデルを確立しているセブン-イレブン。その「売り逃さない」店舗運営は、神戸大学の小川進氏によって詳細に描き出されている(『競争的共創論』白桃書房)。

たとえば、トラックの運転手が多く来店するセブン-イレブンの店舗があったとする。このような店舗では、夏になって暑くなると、白いシャツが着替え用に売れるのだという。セブン-イレブンの店舗では、このエピソードのような「どこで、何が、いつ売れるか」の仮説を、過去の販売実績や気象データなどと突き合わせて検証したうえで発注を行う。こうした取り組みが、予測精度の高い発注を実現し、売り逃しのロスを抑える。

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