このままでは「人材倒産」に陥りかねない

人手不足の時代に入ったと言われている。帝国データバンクが、2013年12月から今年の1月にかけて行った1万社あまりの企業を対象にした調査でも、正社員について、不足感があると答えた企業が全体の約37%もある。また厚生労働省が6月中旬に発表した労働経済動向調査(平成26年第2四半期)でも、不足と答えた事業所の割合から過剰の割合を引いた、労働者過不足感DIは、消費増税による影響でほんの少し緩和されたものの、18と高止まりしている。6月27日付の日経新聞(夕刊)によると、5月の有効求人倍率は1.09倍、完全失業率も3.5%である。

さらに業種や地域などによってはより強い人手不足感がある。上記のDIは、医療・福祉分野で43、運輸・郵便34、建設30などを示し、地方の中小企業などでも状況は厳しい。大阪商工会議所が6月中旬に発表した調査によると、大商の会員で、資本金10億円以下の企業に調査したところ、1700社強のうち約65%が不足感をもち、そのうち、9割程度が、このままでいくと「事業運営に支障がある」と考えている。一部の小売企業でアルバイト店員不足を理由に、店舗の閉鎖や開店延期などが報道されている。

アベノミクスの効果なのだろうか、日本経済全体が、“突然”人手不足になったようである。少し前まで、多くの企業では、どうやって余剰人員を外部に排出していくのか、また経済全体では、どうやって余剰人材の雇用機会を確保するのかに心を悩ましていたのが嘘のようである。運用資金が回らなくなって事業を続けられなくなるのが、普通の倒産だとすれば、人材が枯渇し事業が回らなくなる「人材倒産」というような事態に陥りかねない勢いである。

もちろん「人材倒産」というのはかなり誇張した言い方である。ただ、多くの企業で、必要な人材が不足して事業の拡大ができない、新たな事業が興せないなど、企業成長が妨げられる事態がみられるようになってきた。現在、人的資源の不足が企業発展の大きな足かせになっている可能性は高いのである。私が講演などでこうした話をすると、多くの企業でありうるという反応が聞かれる。みなさんの企業でも思い当たる節はないだろうか。

なぜこうした変化が起こったのだろうか。すでに各所で指摘されているが、大きな背景は労働人口の減少である。いわゆる生産年齢人口(15~64歳)は、ここ20年程度減少を続けており、人口全体に占める働く可能性のある人の割合は減り続けている。またそのうち実際に働いている労働力人口も減少している。こうした潜在的な労働力不足はここしばらく進行していたが、景気低迷のせいで、問題にならなかったということなのである。人口動態というのは多くの統計指標のなかで、最も早くから予測可能で、また予測が間違わないという意味で、信頼性のある指標である。長い間確実に進行していたトレンドが、今回の景気回復で一気に問題化した点は否めない。