言いたい放題でも人間関係が破綻しない職場

矢野氏は、「上司から叱られても、上司のEQを知って、自分のために叱ってくれているのだと理解できれば、職場に軋轢は生まれない」と言うが、部下の反応を恐れるあまり、部下を叱ることをためらってしまう上司にとっても、セルフサイエンスを職場単位でやることの意味は大きいだろう。

一方、武藤氏が強調するのは、コミュニケーションコストの削減効果だ。

「言いたいことを言い合うことができて、しかも人間関係が破綻しない職場では、たとえトラブルが起きても、すぐさまそれを解決することができます。逆に、誰もが『悪い』と気づいていても、その認識を共有できない職場はトラブルを拡大させてしまいます。JR西日本の福知山線の事故などは、その典型です。あるいは、無駄なことを無駄だとはっきり言ってしまっても、それをきちんと受け止めてもらえる職場は、情報の伝達が滞りなく行えるのでコミュニケーションコストが低い職場だと言えます。目に見えにくいため多くの人は気づいていませんが、職場の雰囲気が悪いとコミュニケーションコストが無茶苦茶かかる。私は、ホワイトカラーの生産性をあげるには、EQの活用しかないと思っています」

セルフサイエンスは、プロファイリングを受けた後に、個々人が新たな行動目標をコミットし、同時に、行動目標の達成を確認してもらう監督者を決めて終了する。松山氏は、受け身になりがちなコミュニケーションパターンを改善するため、会議やミーティングの冒頭で積極的に発言するという行動目標をコミットしたという。

「職場単位でセルフサイエンスを受けた結果、人間関係に対する興味関心が職場単位で盛り上がってきたのは事実ですね」(松山氏)