実際にアセスメントを受けた松山氏の感想はどうだろう。

「私の場合、コミュニケーションのスタイルにおいて受容型、つまり聞き手に回りがちという結果が出てきました。薄々気づいてはいたものの、自分では認めたくはなかったことというか、頭ではわかっていても、なかなか改善できなかったことをズバリと指摘された感じですね」

これだけでも十分な気づきになると思うが、ここで終わってしまっては診察止まり。重要なのは次のステップ、セルフサイエンスだ。ここで一体何をやるのか。松山氏の話を聞いてみよう。

「アセスメントはwebを使って個々に回答しますが、セルフサイエンスは職場単位で受けます。弊社の店舗は平均で7名ほどの社員がいますが、3つの職場が集まって、合計20名ほどで受講します。同じ職場の人間同士が2人1組になり、アセスメントの結果を交換し合い、講師の指導に従って互いのプロファイリングをしていきます」

プロファイリングとは、FBIなどで犯人を特定するために使われる心理分析の手法だ。セルフサイエンスではこの手法を駆使して、互いの強みと弱みを分析し、その強みが十分発揮されているか否かを伝え合い、さらに、強みを発揮するためのアドバイスまで行う。まさに処方である。松山氏は言う。

 「意外な感じを受けますよ。私は、自分はズボラな人間だとばかり思っていたのですが、結構、細かい人間であるという分析を受けました。また、私がプロファイリングをした相手は入社間もない社員でしたが、第一印象は、やや消極的なイメージでした。ところがアセスメントでは、コミュニケーションスタイルは自ら働きかけるタイプであり、リーダーシップも強く持っているという結果が出ていました。そこで、第一印象で損をしているから、もっと出会いの瞬間を大切にしたほうがいいとアドバイスをしました」

興味深いプロセスだが、同じ職場の人間同士が相手の心の働かせ方について言い合うのは、勇気がいることでもある。「ハッキリ言ってしまいたいが、後が怖くて言えない」というのが一般的な心理ではないだろうか? セレブリックス・コンサルティング事業本部の矢野篤氏が言う。

「アセスメントのデータがあるからこそ、冷静にできるのでしょうね。セルフサイエンスを職場単位でやるのは、職場全体のEQに対する意識を高めることが目的です。階層別に、たとえば課長だけ集めてやってしまうと、研修の間は真剣に聞いていても、職場に帰ったとたん『オレはこの職場の長なんだ』という意識に戻ってしまう。これでは、職場は何も変わりません」

たしかに、職場の全員がお互いの「心の働かせ方」を知れば、職場の風通しがよくなるだろうことは容易に想像がつく。「課長がああいう言い方をしているのはなぜだろう?」というように、相手の言動の背後にある心の動きに目が向くようになるからだ。