「断るのが苦手な人」「優しい人」が生贄

さらに辞めさせない企業に共通するターゲットが「断る事が苦手な人や優しい人達」だ。ある労組の相談員は「どちらかといえば素直で従順な気持ちがやさしい人の相談が多い。だから会社に何か言われても、逆らおうとしない。会社がうんと言わなければ、辞められないと考えてしまう」と指摘する。

だが、こういう人たちは人としてはまっとうであり、真面目な人だ。与えられた仕事をこなそうとする責任意識の強い人であり、彼らには責められるべき何の非もない。悪いのはその性格を巧みに利用し、こき使おうとする経営者や上司である。

労組の担当者はその構図をこう説明する。

「長時間労働など過酷な労働のせいで仕事中にミスして、経営者や上司から責め立てられれば、労働者の意識がどんどん卑屈になっていく。会社側も、悪いのは会社ではなく自己責任なんだという方向に持っていき、労働者はとにかくすべて自分が悪いのだと思ってしまう。しだいに経営者の言うことを疑うことなく、真に受ける。与えられたノルマを果たせなかったことで、社長に迷惑をかけてしまったと考える。引き継ぎもしないで逃げるように退職することは、モラルとしても許されないと信じて疑わなくなる」

会社は社会的に許容されない違法労働などの悪事を働きながら、労働者に対しては「すべて自分が悪いのだ」という自己責任意識を植え付ける、つまり洗脳によって辞めさせることを封じて過酷な労働を強いるのである。

じつはすき家も例外ではない。第三者委員会の報告書は過重労働を是正できなかった原因の一つとして、悪しき「自己責任」論と「言いっ放し・聞きっぱなし」の蔓延を挙げている。

<すき家では、「自己責任」の名の下に、上から下への責任の「押しつけ」、下による押しつけられた責任の「抱え込み」が広くみられる。また、各自がそれぞれの立場から正論を言うだけで具体的なアクションにつながらないという「言いっ放し・聞きっぱなし」が蔓延していた。>

今、世の中は人手不足問題で騒がれている。今後、人手不足が続けば、自己責任の名の下にあらゆる策を弄して辞めさせない企業が増える可能性がある。

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