明治時代の苛酷な労働環境に似ている

辞めさせない会社に共通するのは、低賃金、残業代なき長時間労働など劣悪な労働環境に加えて、暴言・暴力などのパワハラ行為である。

こうした事例をみてすぐさま想起したのは、 明治時代の1903年(明治36年)に農商務省商工局が著した『職工事情』に記された労使関係の実態だ。長時間労働や暴力などの虐待も横行し、その結果、鉄道自殺を図る者、肺病、胃腸障害などの病気になった人や死亡した人も多かった。

もちろん、経営者の都合でいつでも解雇でき、労働者はそれに異議を唱えることも許されない一方、「解雇を乞う」、つまり自己都合で辞める場合は、積立金や未払い賃金が没収されるうえ、場合によっては代人(身代わり)を出すという取り決めをしているところもあった。

この時から100年以上の時を隔てた法治国家の日本でも同じことが起きている。というより、戦後に築き上げた良好な日本の労使関係が悪化の一途をたどっているということだ。

もちろん一部の企業には違いないが、2013年の9月に厚生労働省が実施した「若者を使い捨てにする企業」の重点監督では、違法な時間外労働など何らかの労働基準法関係法令違反を犯した事業場は全体の82%に及んでいるという実態もある。

一般的に長時間労働や残業代未払いなどの低賃金労働に従事させ、使えない社員をいじめや嫌がらせによって自主退職に追い込んでいくのがブラック企業の手口とされている。

9月6日、弁護士や市民団体、労働組合幹部らで組織されるブラック企業実行委員会主催「ブラック企業大賞」に、株式会社ゼンショー(すき家)もノミネートされていた(今回の大賞は「ヤマダ電機」)。

一見、使い捨てにするブラック企業と「辞めさせない企業」は真逆の存在のように見えるが、じつは「辞めさせない会社」も利用価値のない人は退職に追い込むが、利用価値のある人は潰れるまでとことん働かせるという意味では、同じブラック企業なのである。

そして、辞めたくても辞めさせない、あるいは辞められない現象は人手不足の状況になると顕在化する。

牛丼の「すき家」の大量店舗閉鎖に至った原因を分析したゼンショーホールディングスの「労働環境改善に関する第三者委員会」の調査報告書が7月末に公表された。この中にも、辞めたくても辞めさせてもらえないという人たちもいる。

その前に、報告書に描かれた“ブラック”の実態を紹介しよう。店舗の閉鎖に至った原因は、慢性的な人手不足による長時間・過重労働にある。それが退職者の増加を招き、人手不足が加速されるという「負のスパイラル」に陥り、過重労働がさらに深刻化していったと断じている。