なぜ「すき家」バイトは「辞める」気力さえ失ったか

現在、閉店中の「すき家」麹町店。直前までバイトの募集をしていた。

すき家の店舗数は2011年4月の1572店舗から12年4月に1799店舗、13年4月、1941店舗、14年4月1986店舗と拡大していくが、この間の正社員数は400人弱とほとんど増えていない。

もちろん、毎年170人程度を新規に採用しているが、2012年度、13年度の退職者数とほぼ同数。社員が一向に増えないまま、店舗だけが増えて仕事量が増大するという悪循環に陥っていた。

ちなみに新卒社員の離職率も年々高くなっている。2011年入社の社員(131人)の3年以内離職率は58.8%。2012年入社(175人)の2年以内離職率は45.7%である。

同社の残業時間データによると、非管理職社員の平均月間残業時間は多いときで約80時間、少ないときでも40時間を超えている。月間平均残業時間が100時間以上の正社員がしばしば100人を超え、クルー(アルバイト)でも常に数百人いた。もちろんサービス残業は含まれていない。

2012年度から13年度にかけて時間外労働に関する協定の限度時間を超えるなど法令違反で労働基準監督署から是正勧告を受けた数は62回に及んでいる。

第三者委員会のヒアリング調査では社員の中には恒常的に月500時間以上働いていた人や業務が多忙で2週間家に帰れなかった人もいたという。

過重労働は当然、健康を蝕んでいく。鬱病になった人、体調不良およびノイローゼで通院する人、居眠り運転で複数回の交通事故を起こしたことで退職する人もいた。

こんな労働環境では辞めたくなるのは自然だし、離職率増加の最大の原因でもある。だが、一方では辞めたくても辞められない人もいた。報告書ではこう述べている。

<クルーの中には、月間労働時間が400から500時間に上る者がおり、過重労働は、クルーにも及んでいた。実際、アルバイト用のアンケートにおいては、「断る事が苦手な人や優しい人達などが酷いシフト常態になっているのを目の当たりに見る。休み無しで、家にも帰れず車また店舗の更衣室などで寝ているのも見た。はっきり言って異常な光景だと思う」との回答があった。また、クルー相談窓口には、クルーから「長時間労働で体力的にもキツく、退職したいと5カ月位前からBM(注:ブロック・マネージャー)へ言っていたが、辞めさせてもらえない」等との声が寄せられている。>

辞めたいと申し出ても、いろんな理由をつけて引き延ばすのは、辞めさせない企業の常套手段である。もちろん有期のアルバイトでも、当初の契約内容と違う、あるいは法令違反があれば、契約期間内であってもいつでも退職を通告して一方的に辞めることができる。

しかし、会社や職場の人間関係を壊したくない、辞めれば職場や他の社員に迷惑をかけるという気持ちが働き、会社の承諾を得てから辞めようとする。

その結果、辞められないままに過重労働で心身が疲弊し、辞めたいという気力すら失ってしまい、最後は病院に担ぎ込まれるという人が少なくないのである。