現地のトップは15年から20年選手

【田原】日本の企業がたくさん中国に進出していますが、なかなか成功しません。コマツはどうしてうまくいったのですか。

【坂根】一つは当社の歴史です。私が入社した60年代から中国とビジネスを始めていましたから。それと現地の人との信頼関係も大きい。たとえば3年前に中国もバブルがはじけて、アメリカ系の企業はレイオフをしました。中国は何年か後に必ずよくなると、レイオフしないで頑張ってきました。仕事はなくても、その間に社員教育や品質管理、安全管理の教育をしっかりやればいい。そうした姿勢が信頼関係に結びついているのではないかと思います。

図を拡大
コマツは12年度、中国、アジア新興国で苦戦した

【田原】現地のトップは、日本人ですか。

【坂根】中国人です。コマツは長年の海外展開の経験から、ローカルの人をトップに据えて、日本人は補佐役に徹したほうがいいという結論に達しました。だから、中国だけではなく、いま世界の大きな拠点11カ所のうち、9カ所が現地人トップです。

【田原】そういう会社は珍しいですね。

【坂根】もちろん権限委譲するには、われわれが大事にしている価値観を共有してもらわないといけません。過去には能力の高い人を落下傘で持ってきて失敗したこともあります。だから能力が少々高いことよりも、価値観を共有できているほうがいい。いまの現地のトップはほとんど15年から20年選手です。

【田原】コマツのやり方は、中国で理解してもらえますか。

【坂根】私たちのやり方は、ハンターよりファーマーです。狩ったら終わりじゃなく、ファーマーはすぐに商売に結びつかないところにも地道に種をまいて育てるわけです。あるとき、中国の代理店会議で代理店の社長が「自分たちの仕事は売って終わりだと思っていたが、どうも違う。特に建設機械は売る前の種まきや売った後のサービスが大事だ」と発言していた。これにはわが意を得た思いでした。こっちから言わなくてもわかってくれていたのだと思うと、うれしくなりました。