インターネットイニシアティブ会長 鈴木幸一さん

1946年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学文学部卒業。92年、インターネットイニシアティブ企画を設立。94年、インターネットイニシアティブ代表取締役社長に就任。2013年より現職。芸術・文化、とりわけ音楽への造詣が深く、音楽家たちとの親交も深い。05年から始まった「東京・春・音楽祭」では実行委員長を務める。今年は3月14日から4月13日まで開催。詳細はHP(www.tokyoharusai.com)で。PRESIDENT誌「新刊書評」コーナー執筆陣の1人としても活躍中。


 

ここ(いづ政)のお父さん、かっこいいでしょ? 銀座の「出井」で修業してたんだけど、江戸っ子で“ひ”が発音できないんですよ(「いつもうるさいんだよ、このおやじは」と店主苦笑)。“バカ野郎この野郎”は、このあたりでは会話の枕詞ですからね。この黒豆うまいでしょう? どんぶり一杯はいけますよ。あと、秋のイクラがいい。黄金色で、ほんとのナマ。醤油も塩もいらないんですよ。

東京・上野の森で開催される「東京・春・音楽祭」の実行委員長を始めて、今年でちょうど10年目になります。音楽祭の後に、国内外の演奏家も含めた親しい人たちとここに寄るようになりました。一緒に来るのが豪快な人ばっかりで、うるさいの何の。そのうち、音楽祭じゃないときも通うようになったんです。

音楽祭の発端は15年前。小澤征爾さんと飲んでいたときです。「日本から世界にオペラを発信したい。ウィーンやパリ、フィレンツェの歌劇場に持っていきたい」と盛り上がって。てっきり酒の上での与太話かと思っていたら小澤さん、どんどん話を進めてしまった(笑)。

だから、オーケストラ、室内楽、リサイタルと色々やる今の形とは違って、当初はオペラだけ。4年間やったところでやめようかと思いました。私が破産するんじゃないか?とも言われましたが、みんなでお金を少しずつ出しあって、桜の時期、色んな演奏が楽しめる音楽祭を、という私の希望もあって、次第に協賛金が集まるようになりました。

3.11の震災のとき私はパリにいて、直接体験をしていません。でも、直後はあちこちでイベントやコンサートの自粛とか何とかっていう話がたくさん出てきたでしょう? そんなバカな話があるかと思いました。

それならと、私個人のお金で朝日新聞に「こういうときこそ、音楽の力が必要なんだ」と一面広告を出して、指揮者のズービン・メータに協力をお願いし、ベートーベンの「第九」をやりました。まだ余震が続いていましたが、観客も演奏家も揺れには慣れてましたね。で、みんな涙して……ほんとうに感動的でした。そんなこともあって、この音楽祭を大切にしようという気持ちが膨らんで、将来も続けられる限り、続けようと思っています。

今年は3月14日から1カ月間。毎年期間中は、上野の森のあらゆる文化施設や、上野周辺の商店街や観光協会の人たちも協力してくれて、毎日何かしら演奏会を開いていますし、学校で無料演奏会をやったりもしています。昨年は上野駅で、普通の格好をしている人たちが突然演奏を始める“フラッシュモブ”をやりました。やっぱり、生演奏はみんな感動するんですよ。