「1分間観察」で記憶力が鍛えられる

時折、母と絵を題材に遊ぶこともありました。「1分間、この絵をじっと見て。形をよく観察して」と母。デジタルの時間が刻まれる中、私は当時流行していたセーラームーンの絵を制限時間いっぱいじっと見つめます。やがて1分経過すると絵はしまわれて、白い紙が登場します。その白い紙に複雑な形のヘアスタイルや、洋服のデザイン、体のライン……など覚えたイメージをできるだけ正確に再現する遊びです。

その出来栄えは絵によって異なりましたが、楽しかったです。1分という制限時間は短いけれど、逆に、それ以上長く集中して絵を頭にたたき込むのは難しかったかもしれません。つまり、こうしたイメージ再現遊びも、ストップウオッチという短時間集中を促すアイテムがあったからこそ、スリル感を楽しむことができました。

その影響か、高校時代は暗記力が問われる社会や理科系の科目の教科書を、短い時間で覚えられるような能力がついていました。時には、「1ページ1秒」ペースで、分厚い参考書全体をざっと頭に入れるような勉強もしていました。300ページでも300秒、つまり5分でおおまかに内容を把握するという具合です。

もちろん、全文をそのまま記憶できるわけではありませんが、文章の要点を押さえ、何の説明がページのどのあたりに配置されているかなどを、映像的に記録する要領で脳にインプット。すると、インプットした参考書を頭の中でめくりながら問題を解くこともできました。

今でも小説や漫画を読むときは、2回は読みます。最初にぱらぱらとページをめくり、おおまかな話の流れを理解したり、物語の全体像をつかんでから、もう一度読み直します。

制限時間の最後にバカ力が発揮される

ストップウオッチには、自分の奥底に眠っているポテンシャルを引き出してくれる力があることもわかりました。カウントダウン方式で問題を解いた場合、残り時間が迫ってくると、急にひらめいたり、ふと気づくと問題が解けていたりします。学生時代、試験が終わるとき「あと5分だ!」と焦ると、集中力が高まりました。

センター試験でも、終了時間が近づいたときに力が発揮される「締め切り」効果がありました。数学の図形問題で角度を問うものが、どうしても解けなかったのですが、「あと5分」「あと3分」……とカウントダウンしていく中、私はなぜか沈着冷静でした。そして、諦めることなく考え抜きました。残り10秒になると万事休すで、見直しをしたり、手を止めたりする人もいるでしょう。でも、私はぱっとひらめきました。「わかった!」