最後にアベノミクスのリスクについて触れましょう。よく物価だけが上がって経済は良くならずに、いわゆる「スタグフレーション」になるという懸念を表明する人もいます。そうなる可能性はないのでしょうか。

日本の場合、スタグフレーションになったのは1974年の第一次石油ショックの頃くらいしかありません。この時は実質国民総生産の成長率がマイナスになり、物価が急騰しました。アメリカやイギリスといった先進国ではスタグフレーションが起きましたが、そもそも日本も含めてスタグフレーションが起きた理由は景気が過熱していたのにもかかわらず、金融の緩和や財政の拡張を続けてしまったからです。日本の場合は、石油ショック後にすぐに政策で対応しましたのでスタグフレーションはすぐに終わりました。スタグフレーションが現在の日本ですぐにやってくるとは思われません。たとえばインフレ率が5%を超え、失業率が2%を下回り始めると警戒が必要でしょうが、現状はまだまだ景気過熱には遠い状況でしょう。

それよりも、これから1年くらいの間ではデフレ不況から完全に抜け出すことができないかもしれません。4月からは消費税増税が始まります。家計の負担分はおよそ8兆円弱。景気後退を恐れる政府は5.4兆円あまりの対策を打ちますが、対策にも関わらずこの影響は無視できません。民間経済機関の予測をまとめたESPフォーキャスト調査では、2014年度の実質経済成長率は0.8%台にとどまります。政府の見通しは1.4%台(※2)と強気ですが、2013年の2.6%という予測値よりは低くなります。

消費税が上がると、物価は一時的には最大で3%ほど高くなります。そしてそのときに景気が後退して実質成長率も下がると考えられます。一時的には「スタグフレーションもどき」が起きるかもしれません。しかし、これは1997年に消費税を3%から5%に上げた時にも起きた現象で、増税に伴う見かけ上のインフレです。

問題は増税後です。消費税増税によって景気が後退すると賃金への上昇圧力も弱まるでしょう。ここまで順調に進んできたアベノミクスは正念場を迎えることになります。私自身は増税の影響が少ないことを祈っておりますが、景気が腰折れして物価が再び下がる可能性は少なからずあります。現状で懸念すべきはスタグフレーションのリスクよりも、デフレ不況の再発のリスクの方でしょう。

仮にそうなったときにはどうなるのでしょうか? 政府と日本銀行の対応が問われることになるでしょう。

※1:日本銀行「資金循環統計(2013年第3四半期速報)」より。
※2:内閣府「平成26年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(1月24日閣議決定)より。経済見通しでは、2014年度の国内総生産の実質成長率は1.4%程度、名目成長率は3.3%程度、消費者物価上昇率は3.2%程度とされている。

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