インフレの時期には実質賃金は上がる

アベノミクスが波及していくメカニズムは次のように考えられます。まず、第一の矢と第二の矢によって将来についてのインフレ予想を作り出します。そうした予想が十分に強ければ、カネをただ持つことのコストが上がって、モノやヒトを使う方向に向かっていきます。すぐに起きるのは株高や円安という資産価格の上昇です。こうした資産価格の上昇が引き金となって、消費、投資、輸出が増え、さらに第二の矢が政府支出を後押しします。需要が増えていくとともに、最終的にはこれまで利用されてこなかった失業者や機械設備が使われて生産も増える。ゆくゆくは経済の潜在的成長率と実際の成長率の間の需給ギャップが解消して、失業率が下がっていき、デフレからも脱却していくことになります。

それでは賃金はどうでしょうか。デフレ脱却で景気回復が進むと、賃金は名目でも実質でも上がっていきます。当初こそ実質賃金はやや停滞するかもしれませんし、一時的には下がるかもしれませんが、最終的にギャップが解消されて労働市場が逼迫してくると実質賃金も上がることになります。日本でも世界でも、インフレの時期には実質賃金が上がる傾向にあるからです。

ただ、3つほど注意点があります。第一に、かりに順調にいったとしてもアベノミクスのすべてのプロセスが完了するまでには2年くらいの時間がかかります。第二に、現在正規労働者は高価な設備投資のようなものになっています。景気回復の見込みが相当に立たないと企業は正規の雇用や所定内賃金を増やさないでしょう。景気回復に対して企業はまず非正規労働の増加や、一時金の割り増しなどで対応しようとします。第三に、賃金がどの程度上がるかは、企業や職種や業種によって違います。小売業などは景気回復に対して賃金が敏感に反応します。