一般的に、直感の精度は年齢とともに高まっていきます。経験が少ないうちは内部モデルも単純ですが、大人になって経験値が増えてくると、「見た目は怖いが、口調がこういう人は信用できる」というように内部モデルに磨きがかかってきます。それゆえ普通は20代より40代、40代より60代のほうが直感は当たりやすくなります。

一方、人は加齢とともに物事を楽観視する傾向があるので注意が必要です。相手を信用するかどうかという二者択一を迫られたとき、もっとも楽なのは相手を信じることです。信じる選択をすれば余計なことを考えずに済みますが、信じない選択をすると、リスクの程度や対応策など、さまざまなことを考えなくてはいけません。多くのことを同時に考えるのは脳にとって負担なので、年を取るほど「もう考えるのは面倒だ。きっと大丈夫だから信用しよう」と楽なほうに傾きがちです。このことは、お年寄りが振り込め詐欺にひっかかりやすいこととおそらく無関係ではありません。

取り扱い要注意の「オキシトシン」

以上、脳と信頼の関係について簡単に説明しましたが、ここからは不信を信頼へと変える方法について考えてみましょう。

不信を信頼へと変えるのにもっとも手っ取り早いのは、オキシトシンの投与です。オキシトシンは陣痛や赤ちゃんへの授乳を促進させるときに機能するホルモンで、従来は男性と無縁のものと考えられてきました。ところが近年は研究が進み、男性の脳の中にもオキシトシンがたくさんあり、信用するときに多く出ていることがわかってきました。いまのところ、脳内物質で信頼に関係すると確実にわかっているのはオキシトシンだけです。

このホルモンを人に投与した実験が、じつに衝撃的です。オキシトシンを鼻から吸引させたところ、金銭取引で相手の言葉をほとんど盲信してしまったのです。その結果、損害を被っても、ふたたびオキシトシンを投与すると、損害のことを忘れてふたたび相手を信じてしまいます。オキシトシンは、まさしく取り扱い要注意のホルモンです。アメリカではオキシトシンが薬局で売られていますが、本当に効いてしまうため、神経倫理学会で問題視されています。