なお、死亡や病状悪化の過失を問うほかに、「適切な治療を受けられたはず」という患者の期待が踏みにじられた精神的苦痛に対する慰謝料を請求することもあります。

図2:時間と費用がかかる医療訴訟。訴訟提起の前には「調査」が必要
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図2:時間と費用がかかる医療訴訟。訴訟提起の前には「調査」が必要

しかし、患者側が過失や因果関係を立証するのは簡単なことではありません。一般的に医療訴訟は、非常に専門性が高く時間もお金もかかります。弁護士も、医療訴訟に詳しい人を探したほうがよいでしょう。

通常弁護士が患者側から相談を受けると、すぐには訴訟に持ち込まず、まず「調査契約」を結んで調査を開始します。どのように亡くなった(病状が悪化した)かという医学的なメカニズム、どんな診療が行われたかという診療経過を把握して原因を解明し、再発防止策も考え、さらに、医師や医療機関側に過失があったかどうか、どこまで法的責任が問えるかを検討するのです。

この調査には、通常1年程度はかかります。私が所属している「医療問題弁護団」では、調査の弁護士手数料は原則31万5000円(税込み)ですが、加えて医学書などの専門文献コピー代、専門家の意見を聞くにあたっての謝礼など実費がかかるので、実費を含めた患者負担が数十万円に上ることも珍しくありません。

訴訟割合については、調査契約を結んだ件数を10件とすると、6件程度は調査で終了、残り4件のうち半数以上は示談などで決着するので、訴訟に持ち込まざるをえないのは1、2件程度と少数なのです。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=大井明子)