「一日なさざれば、一日食らわず」。禅では仕事も修行の一つだ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

営業成績が伸びなくて、同僚にどんどん差をつけられる……。しかし、この世にあなたと同じ人間はいません。同僚と成績を比べても意味がないのです。

禅では、他と比較して心をとらわれることを「妄想(もうぞう)」と呼んでいます。対して、そこから自由になり、目の前のことに集中することを「莫妄想(まくもうぞう)」といいます。大きな成果は、われを忘れて仕事に没頭した「莫妄想」のときに得られるもの。自分が主体となり、いわば自分の色に仕事を染めることができた結果です。

売り上げ目標と現状のギャップに注目するのも同様に比較です。目標を意識しすぎると“やらされ感”ばかりが膨らみ、仕事の楽しさや喜びが奪われます。

売り上げは、必死に努力した結果、伸びていくもの。目を向けるべきは努力のほうで、結果ではありません。先に数字を掲げ、どうすれば達成できるかと考えるのは順序が逆です。

売り上げノルマはいったん忘れましょう。その代わり、別の目標を立てるのです。この仕事は誰に喜ばれるかを基準に考えてみてください。

私は講演会で「皆さんは何のために働いていますか?」とよく尋ねます。家族のため、いい暮らしをするため……さまざまな答えが返ってきます。そこで「もし一生遊んで暮らせる大金を稼いだらどうしますか?」と質問すると、「誰かに感謝される仕事をしたい」と多くの人が答えます。贅沢三昧の暮らしを送っても、すぐに飽きてしまうと容易に想像できるからでしょう。仕事を通して世の中の役に立ち、その対価が自分の収入になるからこそ、働きがいが生まれるのです。

どんな仕事でも、必死に努力すれば、7割はできるようになります。さらに上のレベルに到達するには才能や環境が影響しますが、自分がどこまでいけるかは7割に達して初めてわかることです。

まずは7割の完成度を目指しましょう。そのためには売り上げ以外の目標を立て、いまの仕事に「莫妄想」の心で打ち込むことが重要です。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。