「一日なさざれば、一日食らわず」。禅では仕事も修行の一つだ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

私たちは他人に評価されるために働いているわけではありません。それでも、高く評価されると嬉しく、低く評価されるとおもしろくないのが人間です。

人づかいが上手な上司は、部下の長所を見極め、その人に合った仕事を与えます。しかしすべての上司がそうではありません。部下の適性など考えないで仕事を命じ、うまくできないと低く評価する上司もいます。

そんな上司の下で仕事を嫌々こなしていると、成長は止まってしまいます。そうならないためには、上司の要求をこなす一方で、自分流の仕事をプラスしていけばよいのです。上司が用意した評価の土俵とは別に自分の土俵を設定し、勝負していく。そうやって自分を高めれば、次の上司、次の次の上司が認めてくれるかもしれません。

上司は上司で、部下から評価されたいものです。信頼され尊敬されなければ、部下は動いてくれないからです。

私は庭園デザイナーとして日本庭園をつくっていますが、初めてご一緒する庭師さんたちとはできるだけ早く信頼関係を築くように努めます。現場で地下足袋と軍手を身につけ、率先して動くこともあります。口先だけでは、誰も信頼してくれません。禅では理論と実践が一致する「行解相応(ぎょうげそうおう)」を理想としています。「こんな庭をつくりたい」と自ら行動して初めて、周囲の人を巻き込むことができるのです。

もちろん、相性の問題もあります。上司や部下に「どうも反りが合わない」と感じたら、尊敬できる面を探し、相手より先に褒めることです。褒められて嫌な人はいません。それどころか、褒めてくれた相手の長所を見ようとするものです。

信頼関係が成立していれば、たとえ叱られても、不思議と腹が立ちません。しかし、的外れな指摘を受けると、頭にカッと血がのぼることもあるでしょう。そこで何か言い返せば、相手への批判になりかねませんから、冷静に「わかりました」と答えて、3回深く呼吸するといいでしょう。おへその75ミリほど下の臍下丹田(せいかたんでん)に呼吸を落とすと心が静まります。

私の知り合いは、相手が怒ったら腹の中で「ありがとさん」と3回繰り返すそうです。頭で考えるから血がのぼるのです。腹に留めることをぜひ覚えましょう。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。