「一日なさざれば、一日食らわず」。禅では仕事も修行の一つだ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

本当に役立つ斬新な発想は、思いがけない瞬間に浮かんでくるものです。

私自身の経験で言えば、庭園づくりに活かすアイデアは、お風呂に入っているとき、新幹線や飛行機に乗っているときなどによくひらめきます。じっと考え込むこともありますが、同じ場所で考え続けても、すぐに行き詰まってしまいます。

オフィスで考え込んでもアイデアが浮かばないときは、気分転換に出かけるのが一番です。屋上で深呼吸し、運動する。公園を歩き、自然に触れる。そうやってぐーっと狭まった思考を広げるのです。

大切なことは、頭で考えるのではなく、五感を使って自然を感じ、変化を感じることです。オフィスで数値やデータに振りまわされていると、ものごとの本質が見えなくなってしまいます。私たちが生活する世界に同じ日は1日としてありません。見慣れた風景でも必ずどこか変化しているのです。

自然をよく観察すると、思いがけないところにアイデアは転がっています。500系新幹線の先頭形状は小魚を補食するカワセミのくちばしがモデルですし、関西大学が研究を進める「痛くない注射針」は、蚊に血を吸われても気づきにくいことをヒントにしているそうです。アイデアに詰まったら、いつも出合う自然をじっくり眺めてみてください。

1日の時間に余裕を持つことでも、アイデアはわきやすくなります。特に朝は重要です。

誰でも起床してすぐは頭が働きません。遅刻するぎりぎりまで寝て、朝食もとらずに家を飛び出す毎日では、アイデアを思いつく余裕はありません。

まずは30分、早起きをしてみましょう。掃除をする、早めに家を出てバス停1つ分を歩くなど、わずかな時間の余裕で、季節の移ろいや自然の変化を感じることができるはずです。

「柔軟心(にゅうなんしん)」という禅の言葉があります。固定観念や思い込みをすべて捨て去った自由な心のことを言います。偏った見方をしていると、目に見えているものに気づかないことがあります。頭をつかわずに五感をフル活用して世界を感じるときに、素晴らしいアイデアは浮かぶものなのです。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。
(構成=伊田欣司 撮影=若杉憲司)
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