従業員のサポートに心砕く

【村田氏】カンボジアの賃金は公務員が月額約4000円、ホテルのスタッフは約7000円。大手企業のホワイトカラー新卒が1万円、外資系に務めると2万円程度です。都市部の工場で縫製の仕事に就くとだいたい6000円ですが、私たちは始めてから3年ほどは売り上げがあがらず、そこまで高い賃金を払うことはできませんでした。

いま多少賃金が安くても、がんばれば必ず成果として現れ、子どもたちを救うことにもつながる。そう説得しても、農村の貧困は深刻だ。目先の利益に走ってしまうのを止めることは難しい。村田氏は粘り強く、コミュニティファクトリーの従業員が働きやすく続けやすい職場づくりに注力した。家族が病気になった、農業を手伝いたいという理由で長期間仕事を離れたいという要望があれば受け入れた。休みが長くなると戻りづらくなるというケースも多いことから家庭訪問を欠かさず実施し、従業員の家族に何かあった時のために互助会的な仕組みも採用した。給料から全員1日25円を貯金し、同額をかものはしプロジェクトも提供して、緊急時の支出に充てるシステムだ。識字教育にも熱心に取り組んでいる。

【村田氏】義務教育の制度は日本と同じで、公立は授業料がかかりません。でも学用品や制服は自己負担。洋服が2着しかなく、制服を買う余裕がないので学校に行けないという子どもも多いんです。学校教育は農作業には必要ないからと親が学校に行かせるのを渋るため、読み書きができない子どもも少なくない。でも、読み書きができないと生産性も下がるんですね。できたほうが絶対に生活もしやすいので、お昼休みを使って読み書きのほか、計算も教えています。計算ができないと仕入れ値と売値の計算ができず、仕入れた金額よりも安く売っていたケースもありましたから。

離職率は、いまでは10%以下まで減少した。読み書きや計算をマスターすれば、理解度が上がり、仕事の達成感も違ってくる。やれば自分たちの給与に反映されるのだという確かな手応えが得られる。家族に何かあった時や長く休んでしまった時も見捨てられないのだと実感できれば、働き続けたいという意欲が芽生えてくる。海外からやってきたNPO法人が理想を掲げても、人はそれだけではついてこない。貧困環境にあればなおさらだ。人を動かすのは目に見える実績や成果。それを可能にするのは、収益を上げ給与を平均水準に近づけるためのコミュニティファクトリー改善活動の根気強い積み重ねである。

●次回予告
認知が広がり、活動が軌道に乗ってきたかものはしプロジェクト。カンボジアでの成果も上がりつつあることから村田さんは新たな展開を決意した。エリアが異なれば、子どもが売られる事情も異なる。新しい地域への進出と、形を変えた問題解決のアプローチとは。次回《村田早耶香「人道NPO」新たな課題地へ》、11月18日更新予定。

(撮影=プレジデントオンライン編集部)