“ありえない”事態のオンパレードに頭抱える。

【村田氏】いぐさのマットはカンボジア人の寝具。材料は現地で調達できるんですが、いぐさの雑貨自体はまだ少なく、これならある程度の雇用が見込めると考えました。ターゲットはアンコールワットを訪れる日本人観光客。貧しい家庭の女性たちを雇用して雑貨を生産し、私たちが日本で行っている講演会やイベントも含めて、日本人相手に販売するという形です。でも、いざコミュニティファクトリー(工房)をつくったものの、生産管理は難航しましたね。需給のバランスを見ながら生産するのは本当に大変だった。何より問題だったのは、品質や衛生管理への意識の違いです。

これは海外生産に携わる組織ならどこも頭を抱える問題だ。多少の傷は「味」とみなし、ちょっとしたズレや縫製ミスをあっさりスルーし、整理整頓が徹底できず、食事を取った後の汚れた手も意に介さず、仕事を再開してしまうつくり手からは、日本人に受ける製品は生まれない。彼女たちの意識をどう日本向けに変えていくか。村田氏は一計を案じ、アンコールワットで日本人が経営している土産用クッキーの工場へ従業員を連れ、視察した。百聞は一見にしかずだ。

【村田氏】工房では日本ではありえないようことが起きるので(笑)、日本人向けの製品をつくるには衛生管理がどれだけ大事かを見てもらったら、すごく刺激を受けたようです。それからはちゃんと手洗いもできるようになったし、自分たちで手順を絵に描いて工房内に貼ったり、靴やいぐさが散乱していたりするのもおさまりました。地元なのに一度も見たことがないというので、遠足がてらアンコールワットにも連れて行ったこともあります。自分たちが作った製品が売られている現場や他の商品を見て、もっと良い商品をつくりたいと思うようになってくれたのは収穫でした。

衛生面も品質面もレベルが上がり、コミュニティファクトリー事業はとんとん拍子、とはいかなかった。離職率が高く、3人の内1人は辞めていく。中には結婚して家庭を持つために辞める女性もいたが、それは少数派だ。大半はもっと良い稼ぎを求めてタイに出稼ぎに出ていた。