今、その典型のような老人のケアをしているという。

「名の知られた会社の元社長。介護度が高く、車椅子を使っておられますが、いつも笑顔。スタッフが動くのを見ると微笑み、目が合うだけでもにっこりしてくれますから、非常に話しやすい。認知症の度合いが強まったのではなく、“子供に返った”という言い方が適当かも。ただ、昔のお話をされるときは相当厳しいことをおっしゃいます。人脈の広さや人望の厚さが窺えますし、周囲に大金を大盤振る舞いするような器量の方だったのでしょう。ご家族は大変だったろうと思いますが」(堀氏)

その家族によれば、元々バリバリやっていたが、息子の代になったらさっと退いて、会社に顔を出さなくなったという。「居場所がなくなったというより、ほっとして肩の荷が下りたのではと思います。現役をやり“切る”ことが大事であり、そこに執着することが1番よくないのかもしれません」。

同じブレイングループの主任ケアマネジャー、加藤範子氏に堀氏と同じ質問を投げかけたら、「好かれる人は、他人の意見が聞ける方や、前向きな気持ちをいつも持っている方。逆にご本人の話も聞きやすいし、リハビリも次のステップに進みやすい」という。

「自分のことしか話さないお年寄りは多いですね。他人の話にちゃんと耳を傾けられる方は10人に1人でしょうか(苦笑)。そういう方は男女を問わず、元々温厚な方。デイサービスでも、そういう方の周囲には人が集まりやすいですね。お年寄り相手に、自分の意見を言わず、ひたすらうなずくだけ。でもご家族と話すときは、聞くことは聞くけどご自分の意見も言うので、お互いに話しやすい」(加藤氏)

これには山田氏も同意見だ。

「老人は自分がしゃべりたい人ばかり。聞き上手のおじいちゃんがいるかどうかは不明ですが、おばあちゃんならたまにいるかも。他人との会話でやってはいけないことにstart(勝手に話し始める)、interrupt(さえぎる)、change(勝手に話題を変える)の3つがありますが、男性はすべてやりがち、女性はこれらを意識的に抑えている……という研究もあります」(山田氏)