最後の決め手は何なのか?

こうした経歴が、山中君の対話力や人間力の不足の一因となった可能性は十分にある。

「でも、一方で彼には受験勉強や武道に打ち込んだ結果身につけた粘り強さがありました。セミナーの費用を自分で支払い、京都から大阪まで通って、実に半年間・40回も、私とのマンツーマンの“対話練習”を続けたんです。歩みを決して止めないその根性は本当にすごいと思います」(浅田氏)

努力の結果、山中君の就活リベンジは「エントリーシート提出20社、最終面接まで進んだ企業4社、内定1社」というものだった。

「周囲の友人がどんどん内定を取っていくのに、自分だけが取れない状況が続き、不安でした。でも、志望する企業に入社できて本当によかった。正直、対話力はまだまだ勉強中です。今回の取材もその練習になると思ってお受けしたんですよ」

安堵(あんど)の笑みを浮かべる山中君。恐らくは1度の就活の失敗と、それを乗り越えて1つ成長した今回の経験は、彼の人間力を鍛えるための貴重な体験となったのであろう。

恐らく、というか間違いなく、今日の新卒採用においても大学名は大きなウエートを占めている。だが、かつてのように「ブランド一流大学出身者なら、ほぼ無条件で採用する」という“万能就職通行手形”では、もはやない。

大学名は企業が学生の眼前に無数に並べたハードルのうちの1つにすぎない。しかもそれは、天賦の人間力を持った二流大学出身者にもかなわない、という程度にデフレ化している。

企業の怠慢に対する憤りと、努力が正当に報われない不遇への嘆きは、まったく正当なものだ。しかし、それにとらわれて歩みを止めるのはナンセンスだ。山中君がコミュニケーション力という迷宮を抜け出せたのも、歩みを止めなかったからだ。

幸い、我々の子供たちにはまだ時間がある。「対話」と「体験」という2つのキーワードについて、親子でじっくり研究し、対処する時間が。

(和久六蔵=撮影)
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