遅ればせながらネット上の選挙活動が解禁となったこのご時世に、地方議会で驚くべき時代錯誤の話を聞いた。

「PCを議場に持ち込むのは禁止されているのです」――そう語るのは東京・多摩市の若手改革派、遠藤ちひろ議員。理由は、「他の議員が使えない」「議場の審議に集中できない」からだという。持ち込めるのはすべて紙書類だけ。スクリーンに投影して説明することも禁止されている。民間企業が紙を減らすご時世だ。PCを持ち込んで会議するのは当たり前、使えない人がいるから持ち込み禁止、などと言ったら大笑いされるだろう。

全国の市でどうなっているか調べたところ、議場へ議員のPC持ち込みを許可している市は全国809の市区のうち29(3.6%)、スクリーン使用は同12(1.5%)だった(2011年12月末:全国市議会議長会「議会のIT化」調査)。また議員1人に1台ずつPCを配置している市は4.3%、政令指定都市(大阪・横浜等)でも21.1%(19市の中で4市)にとどまっている。

しかし、問題の中核は電子化に対する議会・行政の意識の遅れにある。あらゆる資料を紙で作成することが、情報公開の大きな妨げになっていることこそ問題なのだ。データのPDF化は簡単にできるから、本来行政が公開すべき情報を市のホームページに掲載することは難しくない。また傍聴や中継を見ている有権者に対して、議員が質問の要点をパワーポイントで図にするのも簡単にできる。

行政資料の電子化の利点は、議員が効率よく仕事ができる環境を用意するだけでなく、有権者がネットで監視・チェックし、情報共有できる点にこそある。今どき議会図書室に行かなければ読むこともできない紙資料の山に、何の意味があるのだろうか。

日本の地方議会は慣例として全会一致が原則。遠藤氏によれば、PCやインターネットを使えない高齢の議員が1人でも反対すると電子化が進まないのだという。これは地方自治の盲点だろう。こうした現状を知り、有権者が異を唱えることが何より必要だ。ネット上の選挙活動が解禁された時代にふさわしい意識改革が望まれる。

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