1兆円も夢ではない画期的新薬

さて、今私は、アメリカのシアトルに本社があるアキュセラというバイオベンチャーの経営者をつとめています。3つ目の部屋にいるわけです。

なぜ2つ目の部屋を離れたかというと、最後は失明にまで至ってしまう、治療法が発見されていない難病が存在するという現実を日々の臨床現場で目の当たりにし、人類の幸福のためにそうした病を根絶したい、と思い始めたからです。

その時はベンチャーを立ち上げようなどとは夢にも思わず、再生医療でそれを成し遂げたいと考え、関連する研究を行っていたアメリカのワシントン大学に博士研究員として赴任。そこで神経細胞を半永久的に生き永らえさせる技術を偶然見つけ、それをもとにベンチャーを立ち上げたのです。2002年4月のことでした。

それからも紆余曲折は絶えず、あちこちぶつかり、まさにお掃除ロボット状態が続きました。現在は加齢黄斑変性という、失明を引き起こす難病を治療する飲み薬の開発を進めています。新薬開発が成功する確率は3万分の1と言われ、針の穴にラクダを通すようなプロジェクトですが、もう候補となる化合物は見つけていますので、確率は2分の1のところまでこぎつけました。加齢黄斑変性治療に関わる医薬品の世界市場規模は3兆円に達する(※1)と見られており、再生医療も難しいため、幸い、私たちのプロジェクトには世界中から大きな関心が集まっています。