世界経済の行方に不透明感が漂う中、日本企業は稼ぐ力を回復し、日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新しました。その流れを早くから予測し、日本企業、日本経済へのエールを送ってきたのが、 “伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。あまたある企業の中から「伸びる会社」をいかに発掘したか、また、見逃してしまいがちな経済ニュースの重要ポイントはどこか。今回は、2024年11月のアメリカ大統領選で勝利したトランプ氏が新政権でどう行動するか、その中にあって伸びる株式はどういったものか、堀さんの予想をお伝えします。
中東、ウクライナ…トランプ大統領「復活」で起きること
2024年11月のアメリカ大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプ元大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領を破り、復活当選を果たしました。
8年前の大統領選でトランプ氏が勝ったのは激戦州を制したからで、選挙人の獲得人数を競うという独特の選挙制度に助けられた形でした。しかし今回は得票の絶対数でも上回っていたので、完全勝利と言っていいでしょう。
私自身はこの大統領選についてはトランプ氏が勝ったというより、民主党の自滅だったと感じています。たとえばハリス候補の演説は、聞き手である一般のアメリカ人の事情にまったく寄り添っておらず、あれでは有権者の心に届かなかったと思います。講演では聴衆が誰か、どんなレベルにあるかを配慮して言葉を選ぶのが当然ですが、そんなこともできていなかった。しかし、いずれにせよトランプ氏「勝利」の影響は大きいでしょう。
中東のイスラエルでは1年以上にわたりイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘が続いていますが、パレスチナの一般市民にも多くの死傷者を出しているためイスラエルに世界各国から非難が寄せられています。しかし、トランプ氏はイスラエルの強硬路線を支持していますから、彼が大統領に就任した暁には、イスラエルはハマス「殲滅」の動きを加速するだろうと断言します。
トランプ氏はまたロシアに侵攻され戦争中のウクライナに対しても、「これ以上お金は出さない」「自分が大統領になったら24時間で戦争を終わらせる」と公言してきました。
といってもその「戦争の終わらせ方」は、ロシア側に有利な和平案を提案し、それを双方に飲ませる形になるでしょう。トランプ氏はロシアのプーチン大統領と関係が深く、プーチン氏は2016年の米大統領選挙では世論操作などを通じてトランプ氏を支援してきたともいわれます。真相は明らかではありませんが、プーチン政権が何らかの恩恵をトランプ氏に与えてきたことは事実でしょう。
ですからトランプ氏は、プーチン氏が飲めないような和平案を提示することはないでしょう。ウクライナから見て「冗談じゃない。こんな案が受けられるか」という内容であったとしても、「もしこの案を飲めないなら、アメリカからの支援は即時中止する」と脅されれば、ウクライナは受け入れざるを得ないのです。アメリカからの援助なしでは、ロシアとの戦いを続けることができないからです。
マスク氏のテスラ有利か…日本車メーカーに逆風が吹く可能性も
経済問題で私が最も注目しているのは関税です。トランプ氏は自国の製造業保護に熱心で、「自分が大統領に復帰したなら、外国製品に高関税を課す」と宣言してきました。中国であれば60%、日本など友好国にも10%かけると言っていて、これも実行するのではないかと思われます。
気になるのが今回の大統領選において、富豪のイーロン・マスク氏がトランプ陣営に多額の寄付を行っていることです。トランプ氏はその見返りとして、マスク氏が経営する電気自動車(EV)メーカーであるテスラの保護に乗り出すでしょう。政府から補助金を出したり、高い関税でアメリカ製EVを守るということです。その際、たとえアメリカ国内で生産していたとしても、外国資本のEVメーカーには補助金を出さないといった形で、ことさらにテスラを優遇する可能性があると思います。
そもそもトランプ氏は「地球温暖化など起きていない」と決めつけ、パリ協定からアメリカを離脱させてしまった張本人です。温暖化がないのであれば脱炭素を進める必要もなく、EVに補助金をつける必然性もないはずです。補助金を出すにしても、アメリカ国内で生産したものであれば資本がどこの国のものであろうと平等に補助するというのが、国際法で認められた形です。しかしトランプ氏は論理の整合性や国際法など気にしそうもありません。
その意味でマスク氏は政治的に勝利したといえるでしょう。逆に日本のトヨタやホンダは、いくらアメリカ国内でEVを生産しても、不当に差別されて苦しい状況に置かれる恐れがあります。
日本には朗報…BCGの部下で知日派のハガティ氏が要職に?
温暖化問題の例でもわかる通り、トランプ氏の本質は人類が営々と築き上げてきたものを平然と壊してしまう「壊し屋」です。
関税に関しても、これまで何十年もかけて各国が協力し、それぞれの国内の不満分子をなだめながら自由貿易の実現へと歩みを進めてきたのに、その歴史を逆戻りさせようとしています。これを「アメリカファースト」と称しているのですが、その本質は壊し屋なのです。
今回のトランプ政権で心配なのは、大統領の任期が1期限りだということがはっきりしているため、やりたい放題に暴走してしまうのではないかということです。
前回の政権では2期目をにらんで態度を謹んでいたのかもしれませんし、選挙期間中も当選しないといけないので、あまり過激な行動はしないようにしていたはずです。
それがこれから4年間、最高権力者としてフリーハンドということになると、いよいよ壊し屋の本領を発揮することになりかねず、私は強い危惧を抱いています。
その中にあって救いともいえるのが、第2期トランプ政権で元駐日大使のウィリアム・ハガティ上院議員が閣僚級の要職に就くのではといわれていることです。
ハガティ氏は大学院卒業後にボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社し、東京に3年間赴任しています。私がシニアバイスプレジデントとして同社に在籍していたとき、私の部下だったのです。当時からお互いに信頼があったので、食事に誘えば今でも来てくれるのではないかと思っています。
彼はとても賢い人ですが、これといった強い主張を持っているわけではありません。一方で駐日大使については、自ら希望したと聞いています。きっとBCG時代、日本に対しいい思い出があったのでしょう。彼が要職に就くなら、日本にとって大きなプラスであろうと思います。
エヌビディア、ディスコ、アドバンテスト…半導体関連に引き続き注目
トランプ政権成立による影響は以上のようなものですが、世界経済のここ1、2年における最大のトレンドはAI(人工知能)の急激な発達であったといえます。2024年に世界の株式市場で最も注目を集めたのも、AI用の半導体を供給しているエヌビディアの株価高騰でした。
以前にもこの連載で述べたように、私はゲーム業界の知人から「もうエヌビディア抜きではゲームが作れない」という話を聞き、同社に興味を持って、2023年にエヌビディアの株を購入したのですが、購入から1年あまりで3倍以上に値上がりしています。
エヌビディアの半導体は単にその性能が優れているだけでなく、半導体を駆動するソフトウェア基盤もセットで開発していることが大きな特徴です。同社のGPU(画像処理半導体)はAI開発に不可欠といわれるソフトウェア基盤を備えており、ゲームで使われるCGやロボットの開発に使われるシミュレーションでも圧倒的な優位性を確立しています。AI開発は競争が激しくてどこが勝つか見通せませんが、AI用半導体についてはエヌビディアの一人勝ち状態です。
今や時価総額でアップルを抜いて世界一となり、その額はトヨタ自動車の十数倍です。トヨタは世界中に工場を持ち、36万人もの社員を雇用しています。それに対して設計に特化したファブレス企業のエヌビディアは少数精鋭であり、従業員も数万人規模とトヨタの10分の1です。それを思うとエヌビディアの時価総額は驚異的だといえるでしょう。
半導体産業の力は大きく、あらゆる産業の生殺与奪の権を握っていると言えます。日本企業に投資する際も、半導体関連は引き続き有望です。
たとえば私が4年ほど前に株を買ったディスコ。精密加工装置のメーカーですが、半導体の製造工程に欠かせない切断装置で圧倒的なシェアを持っています。100を超えるとされる半導体の製造工程に関わる企業について技術やシェアを徹底的に調べた結果、選んだ銘柄です。
購入当時は1株3万円ほどでしたが、値上がりを続け、途中で3分割された上で最終的に6万円までいきました。私が購入した時点と比べ、6倍に高騰したことになります。私はこの1銘柄だけで10億円以上の利益を得ることができました。
AIブームの勢いは2025年も続き、株式市場の焦点となるでしょう。
ダウ平均に採用されたエヌビディアの株は日本でも買えますし、そうでなくても日本の半導体関連企業の中で、エヌビディアやAIと関係の深い会社に注目するという方法もあります。
私はエヌビディア株の購入後、日本の証券会社の人達に「日本でエヌビディアと関係が深い会社はどこだろう」と尋ねました。そこで名前が出てきたのが、半導体検査装置メーカーのアドバンテストです。これについても調査の上、購入しました。
アドバンテストの株式は1年前の2023年10月末には1株4000円ほどでしたが、2024年11月上旬には1万円弱と、1年で2.5倍に値上がりしています。
この先、AIがどこまで進歩していくのかは想像もつきません。AIが平均的な人間の知能を超えるのは、もう時間の問題かもしれません。
(構成=久保田正志)