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1982年10月8日の後楽園ホール。「オレはお前の『かませ犬』じゃない!」と長州力がタッグパートナーの藤波辰爾に反旗を翻した、いわゆる「かませ犬事件」はプロレスファンの間で語り草になっている。投資の世界では、ウォーレン・バフェットも「かませ犬」のような、引き立て役の弱い株は相手にしないという。

ダメな会社を安く買う「シケモク理論」で大失敗

バフェットが会長兼最高経営責任者(CEO)を務める米投資大手のバークシャー・ハサウェイ。現在では時価総額1兆ドルに迫る巨大企業だが、バフェット自身は「私の投資における最大の失敗は、バークシャー・ハサウェイを買収したことだ」と語っている。

バフェットが同社を買収したのは35歳のとき。当時、同社は繊維業を展開していたが、業績不振で工場を立て続けに閉鎖していた。にもかかわらず、バフェットが同社に投資したのは「企業価値に比べて株価がはるかに安い」と思ったからだ。同時に「自分ならこの会社を再建できるのではないか」という多少の自信も持っていた。

この頃、バフェットが重視していた投資理論は、師と仰ぐ投資家ベンジャミン・グレアムから学んだ「シケモク理論」。投資先をタバコの吸い殻(シケモク)になぞらえ、シケモクのように価値が低く、問題を抱えた企業を安く買い、成長を待って高く売る「バリュー投資」である。

その後、バフェットは多くの資産と経営陣を投入し経営の改善を図ったが、業績が好調に転ずることはなく、買収から20年後の1985年、ついに祖業である繊維部門を閉鎖。400人の工員を解雇し、機械設備一式を16万ドル余りで売却することになった。バフェットの言葉どおり「大失敗の投資」と言えるだろう。

しかし、この大失敗を後の成功につなげてしまうところが、バフェットの「投資の神様」たるゆえんである。

この苦い経験を経てバフェットは、それまでの「シケモク買い」から、株価は少々高くても、「高い競争力」と「強いブランド力」を持つ企業を買収することのメリットを、より強く意識するようになった。この考えについて、後にバフェットはこう語っている。

「まずまずの企業を素晴らしい価格で買うよりも、素晴らしい企業をまずまずの価格で買うことの方が、はるかに良いのです」

企業の成長性を読む「グロース株投資」へシフト

この「素晴らしい企業をまずますの(適正な)価格で買う」という考え方は、投資家フィリップ・フィッシャーが提唱した理論。シケモク理論では着目されることのなかった「企業の成長性」を見込んで投資を行う点がポイントだ。つまり「グロース(成長)株投資」である。

バークシャーの買収から7年後、同社の経営がいっこうに改善されない中で決行したある企業買収が、バフェットの関心を、バリュー投資からグロース株投資へとシフトさせる重要な転機となった。その企業とは、カリフォルニアでナンバーワンの製菓会社シーズ・キャンディーズだ。

1971年、カリフォルニアでナンバーワンの製菓会社シーズ・キャンディーズへの投資話が持ち込まれた。交渉にあたってシーズは、500万ドルの資産に対して3000万ドルと強気の金額を提示してきた。この局面でバフェットが相談を持ちかけたのが「相棒」のチャーリー・マンガーだった。

バフェットに先んじてグロース株投資の有効性に気づいていたマンガーは、同社のブランド力やネームバリューを高く評価し、買収に賛成した。信頼する相棒の同意を得て、バフェットは投資を決断する。その後、シーズは二人の予想どおり、素晴らしいパフォーマンスを上げていった。後にマンガーはバークシャー・ハサウェイの副会長に就任。バフェットの生涯にわたるビジネスパートナーとなっている。

もしもこの時、バフェットがグレアムの理論に固執し、相手の言い値で買うことをためらっていたら、後の成功はなかったに違いない。この経験を通じてフィッシャー理論の有効性を確信したバフェットは、後に、次のように語っている。

「良い騎手は、名馬に乗れば素晴らしい走りを見せるが、やくざ馬(使い物にならない馬)ではそうはいかない」

つまり、バークシャーのような「やくざ馬」ではなく、シーズ・キャンディーズのような「名馬」でなければ成功できなかったというのだ。困難なビジネス(やくざ馬)というのは、どんなに優れた経営者(騎手)であっても立て直すのは難しい。そんな厄介なことに挑戦するよりも、優れた経営者がいる優れたビジネス(名馬)に投資すべき……当時42歳だったバフェットは、後に巨万の富を得るための大切な気づきを得たのである。

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分散投資に潜む大きなリスク

バフェットの投資術の根底にはグレアムの理論が流れているが、グレアムがこだわった「分散投資」については懐疑的だ。バフェットは若い頃から、自分の判断に自信があれば手元資産の大半を1つの銘柄に注ぎ込むようなこともしている。

では、なぜ分散投資に否定的なのかというと、「自分がその企業についてしっかり理解している」ことを重要視しているからだ。分散投資を行う場合、リスクを分散しようと数多くの企業に投資するあまり、よく知らない企業が紛れ込むこともある。結果的に、投資で大きな成果を上げることが難しくなる。それこそが大きなリスクだと考えているのだ。

かつて、プロレスラーの長州力は「オレはお前の『かませ犬』じゃない!」とライバルの藤波辰爾に食ってかかった。「かませ犬」とは、主役を引き立てるために一方的に負ける役目を担う格下のこと。長州は、自分を「よくわからない存在」「引き立て役に過ぎない存在」のように扱う藤波に対し、怒りをあらわにしたのである。

株式投資の世界では、かませ犬のような、よく知らない株、弱い株を相手にしてはいけない。投資しようとする企業について研究し、自分の判断に自信を持つことができたら、むやみに多くの株に分散させず、バフェットのように集中投資することも大切なポイントなのである。

(構成=梅澤 聡 漫画=岡本圭一郎)