なぜ私は報道で騒がれ始める前から、あの「エヌビディア」に着目していたか

世界経済の行方に不透明感が漂う中、日本企業は稼ぐ力を回復し、日経平均株価は34年ぶりの最高値を更新しました。その流れを早くから予測し、日本企業、日本経済へのエールを送ってきたのが、 “伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。あまたある企業の中から「伸びる会社」をいかに発掘したか、また、見逃してしまいがちな経済ニュースの重要ポイントはどこか。今回は、米半導体大手のエヌビディアなどの超優良銘柄に、早い時期から注目し発信してきた理由を公開します。

君は「5年後の世の中」が見えているか?

ボストン コンサルティング グループ(BCG)の創業者は、ブルース・ヘンダーソン(Bruce Henderson)という方です。ヘンダーソンさんは、企業が競争優位性を獲得するために必要な変革を実現させることをコンサルタントの存在意義と考えていた人で、たいへん鋭い知見を持っていました。BCGの名を著名にした経験曲線(エクスペリエンスカーブ)や、どの事業領域に自社の経営資源を配分すればよいかを判断するPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)などは、ヘンダーソンさんが発明した手法です。

コンサルティング会社の中で最も古く1914年に開設されたブーズ・アレン・アンド・ハミルトンや、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどと比べて、BCGは1963年の創業であり、当初は新参者としてのスタートでした。そこから急速に信頼を獲得し、2大戦略コンサルティング会社と評されるまでにしたのですから、ヘンダーソンさんは偉大な創業者だと思います。

私がBCGに入社して間もない頃、ヘンダーソンさんとともに軽井沢の高級ホテルに缶詰めとなって経営トップのセミナーを開催したことがあります。毎朝早く、ヘンダーソンさんから電話でたたき起こされて、散歩に付き添いました。

彼は、ゴルフ場の散歩道に生えている下草を見ながら、「この中で、どれが松の新芽で、どれが雑草だかわかるかね?」と私に聞きます。「わかりません」と答えると、「そんなことがわからないで経営コンサルタントをやっているのか」と怒られました。「経営コンサルタントは、『5年後に世の中がどうなっているか』が見えていなければ務まらないぞ」と言うのです。

ヘンダーソンさんが言いたかったことは、要するに、いま世の中にある新商品や新サービスも、5年前は新芽として誰かが研究所で一生懸命に研究したり、試作品をつくったりしていたものであり、新芽は雑草と違って5年後には立派な木になる。そういう見分けがつかなければならないぞ──ということです。高額を支払ってまで会社の最も大事なことを相談するコンサルタントは、先が見えている人でなければならないと伝えたかったのだと思います。

ヘンダーソンさんのその言葉を、今でもよく思い出します。あの頃以来、私は5年後の世の中がどうなっているか、という問いをいつも頭の中にめぐらせています。

「失われた30年」と呼ばれていた間に、アメリカ陸軍が軍事目的で開発したインターネットが民間でも使えるようになり、すさまじい勢いで成長しました。やがてGAFAMが出現し、あっという間にそれまで世界を支配していたGMやGE、シティバンクなどの巨大企業を時価総額で追い越してしまいました。

これから5年後はどうなるんでしょうか。半導体業界でいえば、いま半導体の微細化は2ナノまで進んでいます。2ナノは試作段階にあり、実用化されているわけではありませんが、今後1ナノや0.5ナノに進んでいくのかといえば、私は違うと考えています。微細化はこれが限界で、次に向かう先は、積層ではないでしょうか。2段重ね、3段重ねと重ねていけば、解析力を2倍、3倍と増やせます。そうなると、積み上げるときの厚さをどれだけ薄くできるかがテーマとなり、そこからまた尽きることのない競争が始まるでしょう。

アナリストが語る言葉より実需家の言葉に耳を傾けよ

さて、こういう話の中で、アナリストや研究者が語る言葉を、私はそれほど信用していません。信用できるのは、実際に半導体を使う人たちの言葉です。昨年、久しぶりに高名なゲームソフトの開発責任者と会って寿司を食べました。いろいろ思い出話をしたあとに、「ところで、ゲーム業界もたいへんな進歩をして、これからさらに進化するだろうけれど、部品の半導体ではどの会社が強いの?」と聞くと、「そりゃ堀さん。論ずるまでもなく、エヌビディア一択です」と言うのです。

なぜかと聞くと、「ゲーム業界で競争に勝つには、スピードと画像処理が命なんです。画像の高速処理で他社とダントツに性能が違うエヌビディアの半導体は、いくら高くても使う以外に道はないんです」と話してくれました。このように、実際にそれを使う実需家がどう見ているかという話を聞かなくてはならないのです。

たとえて言うなら、新鮮でおいしくて安い魚を見つけようと思ったら、料理評論家よりも、料理屋のおかみさんの方がよく知っています。今晩、お客さんに何を食べさせてあげようかという実需家の目で見ていますからね。

その会話から1年もせずに、エヌビディアの株価はうなぎ上りに上昇し、この6月5日には時価総額が3兆ドルを突破。時価総額でマイクロソフトやアップルを抜いて世界1位になったことは皆さんもご存じの通りです。

半導体関連の日本企業はどこが強いか

日本の半導体関連会社としては、東京エレクトロン、レーザーテックなどがあり、ディスコもあります。半導体素材メーカーには栗田工業や野村マイクロなど多くの会社があります。この中で5年後も生き残っている会社はどこかを考えるには、何が競争力の源泉になっているかを見極める必要があります。

たとえば、半導体の製造に必要なピュアウォーター(純水)をつくっている栗田工業や野村マイクロがあります。高純度が要求されるピュアウォーターは、テンナインといわれます。9が10個並ぶ(0.9999999999)という純度です。これは、感覚的に言うと、オリンピックプールに水を満タンに張り、そこにスポイトで1滴だけ液体を垂らしたら、それは半導体製造に使える水ではなくなってしまう。それほど高い純度です。こんな高純度水をつくれる会社は、世界に4社しかなくて、その4社とも日本の会社です。

もう1社としては、半導体製造装置メーカーのディスコを挙げておきましょう。もともとは広島県呉市で創業した砥石屋で、長い歳月をかけて、半導体製造の後工程でウェハを薄く切断する技術を磨き上げました。ディスコはこの技術で、世界の8割以上のシェアを持っています。2位の1.5倍以上のシェアを持っていると、その業界では「王様」といえます。それだけのシェアを持っていれば、価格支配権を持てるし、利益率も落ちません。つまり負けないということです。

エヌビディア、野村マイクロ、ディスコを見る視点からわかるように、5年後も生き残っているのは、誰も追いつけない「競争力の源泉」を持っている会社です。その目の付けどころがわかってくると、強い会社の見極めができるようになるでしょう。

(構成/今井道子)