2016年4月に施行された「女性活躍推進法」。ビズリーチのアンケートによると、同法に賛成の人は65.6%で、反対が34.4%という結果に……。本当に女性が活躍することはできるのでしょうか? 4人の働く女性に意見を伺います。

田坂さん/外資系企業を中心にキャリアを積み、現在も外資系金融機関にて社内広報を担当。マネジャー職。
柳田さん/フィットネスチェーンのスーパーバイザーを務めたあと、フリーランスに。女性のコーチングに取り組む。
守口さん/人材系企業に勤務。つい最近、育休から復帰したばかり。社内で初めての時短勤務者に。
山野さん/小学校で教師として勤務するも、激務に追われ児童としっかり向き合えず。現在は薬局に転職。
※キャリア女性のための転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」(https://woman.bizreach.jp/)の協力を得て4人の方にご参加いただきました。

男性社員のプライド、男性職場への配慮も必要だと思います

【田坂】反対している人が30%超もいるのはきっと、法律の中身が見えないからだと思いますね。

【柳田】あと、自分の生活を圧迫されると思っているのかも。

――それは男性が、ですか?

【柳田】ええ。それに、女性も。というのも、現状、育児インフラも整っていない中で、仕事と子育てを両立させるのは大変です。そして、その多くの負担を強いられるのは、結局、女性なわけですし。

【守口】私は育休から復帰したばかりで、時短勤務で働いていますが、子どもが寝静まった後も、仕事をしています。両立の大変さはヒシヒシと感じますね。

【山野】私は以前、公立小学校の教師だったのですが、あの激務では両立は難しいと思って辞めました。子どもを産んだ先生は、担任を降りて、サポート的な役割に回ることが多いんです。

【田坂】私が勤める外資系金融機関にもワーキングマザーはいますが、レアケースです。現在活躍している女性社員は40代後半の独身女性か、20代、30代前半で、真ん中がいないんですよね。

【柳田】いたとしても、いわゆるマミートラックに乗ったサポート要員ですよね。だから私も、サービス企業のマネジャー職を辞めて、独立してマーケティングコンサルタントをしているんです。

――女性を“活躍”させるためには、その伴侶たる男性を含む全従業員の長時間労働を減らし、両立しやすい社会をつくることが急務という意見もありますが。

【守口】20年前に比べると、育児は夫婦共同でやるものだという意識がだいぶ高まってきました。でも、50代以上の男性管理職は、口では「応援している」とか言いながら、どこかで育児中の女性、ひいては女性の活躍全般を快く受け入れていない気がしますね。

【田坂】私は、そもそも男女にかかわらず、マネジメント(経営幹部)だったら、育児や家庭に重きを置くのはどうなの? という気はします。現実問題、会社ではいつ不祥事が起きるかもしれませんし、対外的にすぐアナウンスしなければいけないこともあります。そんなときに、家庭優先で定時きっちりに帰られてしまうと、果たしてその人がマネジメントの責任を負っているといえるのか、と。

【柳田】だから私は、「一億総活躍」にしても「女性活躍」にしても、国民や女性が多様な選択肢から自分の生き方を選べる状況にしたほうがいいと思う。たとえば、育休だって3年取りたい人もいれば、すぐ復帰したい人もいる。専業主婦になりたい人もいるし、管理職になりたい人もいる。なるべく多くの選択肢から選べる状況をつくるのが政府の仕事であって、今の「女性活躍」という方向性は、かつてゆとり教育を押し付けられたときの既視感を覚えます(笑)。

【田坂】女性を優遇することで、男性がやる気をなくしてしまうことも怖いですね。

【山野】女性にげたを履かせてまで、管理職の女性比率を30%にというのは、同意できませんね。

【柳田】できない上司につけられた部下ほど、かわいそうなものはありません。

【田坂】同感です。上がいいから下が良くなるし、ボスの強さで部下の出世が決まりますから。無理にげたを履かされた女性上司だって不幸ですよ。わが社ではもう女性活用を重視するフェーズはとっくに過ぎ、いまではLGBTや多様な国籍を持つ人との共生にスポットをあてています。そうしないと、会社としても成長しませんし。実際、少し前まで日本支社にはインド人がたくさんいましたが、その多くが帰国してしまいました。

【柳田】日本という国自体が魅力的に、そして経済発展しない限り、優秀な外国人も来てくれませんよね。そして、日本が経済的に強くならない限り、保育所増設などの福祉も進まない。女性活躍も重要ですが、経済発展のための施策を考えるべきだと思います。

■「女性活躍推進法」に関する要望書

先般成立した女性活躍推進法につきまして、下記により要望いたしますので、宜しくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。

(1)盤石なインフラなきまま、活躍するのは難しいこと。保育所や、長時間労働のない働きやすい職場環境づくりなどの整備もしっかり進めてください。
(2)企業内で活躍する人だけでなく、独立・起業する女性の応援もお願いします。

以上 第9回 座談会参加者 一同

提言:女性活躍推進は、国や企業の生き残り戦略であると心得て

●女性活躍推進コンサルタント 清水レナさんから

今からさかのぼること12年も前に「指導的地位に占める女性の比率を2020年までに30%にする」という目標を掲げて以来、企業に対しての具体的な目標設定や指導がなかったことから、歳月を経ても一向に進まなかったわが国の女性活躍。

安倍政権の成長戦略の重要項目として盛り込まれた「女性活躍推進」の取り組みの一環として、女性活躍推進法が成立しました。301人以上の企業は、2016年4月までに厚生労働省へ女性の活躍状況や行動計画を提出することが義務付けられました。併せて、社内外に対して、自社の女性活躍に関する情報の公表も求められています。

女性活躍推進法が定める「4つの必須項目」(【1】採用者に占める女性比率、【2】勤続年数の男女差、【3】労働時間の状況、【4】管理職に占める女性比率)を分析することにより、自社の女性活躍はどの段階に課題があるのかを明らかにすることができ、是正に向けた取り組みへの第一歩につながることが期待できます。

しかしながら、課題もあります。例えば、各企業が数値目標を設定するにあたり、最低限、達成するべき目標の水準が明確にされていないことから、各社の実情に応じて、達成しやすい数値目標が立てられる可能性があるでしょう。

そもそも安倍政権における女性活躍推進の背景にあるのは、日本が抱える「労働力減少」という緊迫した課題です。国や企業の「生き残り戦略」としての女性活躍であるということを理解したうえで、目先の数値目標達成をゴールにするのではなく、本質的な意味で女性活躍推進につながっているのか、真剣に取り組む必要があるでしょう。

時間的制約のある女性が活躍できる国は、間違いなく、誰にとっても働きやすい幸せな国であるはずなのですから。