「オメガ」や「ジャガー・ルクルト」といったグローバル時計ブランドで、ディレクターや事業責任者として活躍された森本道子さん。彼女は今、自身の夢でもあった「起業」を果たして、株式会社ココミーユの代表取締役となっている。そんな森本さんも、実は日系企業→外資系企業と7回もの転職を繰り返しながら、ビジネス人生をステップアップさせた苦労人。働く女性はキャリアをどう考えるべきなのか、お話を伺った。
20代のビジネスウーマンに伝えたいこと
私は2013年に、日本初のベビーパール専門のジュエリーブランドを提供する株式会社ココミーユという会社を立ち上げました。長年ブランドビジネスに携わってきたので、自分のブランドをつくり上げ、起業するというのは私の夢でした。しかし、ここに至るまでの道程は決して平坦ではありません。
大学を卒業して就職した日系企業を皮切りに、3社の日系企業、4社の外資系企業でキャリアを積み重ね、考えてみれば7回もの転職を繰り返した上での起業となりました。ここではその中で経験したこと、学んだことを振り返り、4回の連載で、これから管理職になられるビジネスウーマン、さらには起業を夢描いている女性にアドバイスをできればと思います。
さて今回は、私が日系企業で学んだことを中心に、以下をお伝えしたいと思います。
★転職が多いことはキャリア形成で不利か?
★20代で確立しなくてはいけないものとは何か?
★今後、どのようなスキルが必要とされるか?
「現場」にいる20代で学ぶべきこと
1980年代前半は、大卒の女子学生にとって就職難の時代でした。その中で、私が入社したのは大手の老舗食品メーカー。当時は男女雇用機会均等法施行前でしたし、女性がビジネスの場で生きていくのは非常に難しい時代でしたから、今では考えられないことですが、入社試験では面接官から口頭で「結婚したら退職することが条件」と念押しされ、それに同意した上での就職でした。
入社後、配属されたのは東京支店営業企画課。仕事は営業ツールや営業促進資料の作成でした。私自身は「社会に出たら得意の英語を使って仕事をしたい」と考えていたのですが、配属先は英語の「え」の字も必要ない部署。面接時での約束通り結婚退社をしたため、結果として3年ほど在籍しただけでしたが、多くのことを学びました。
特に印象的だったのは、現場、つまりお客様に最も近いところでこそ、お客様の動向が分かるということ。そして、営業マンがどのような動きをして日々の数字を上げているのか。それはどのような仕組みになっているのか、そのためにはどんな仕組みづくりが必要なのか、つぶさに見ることができました。
ビジネスは生き物のようで、常に動きがあり、同じところに停滞することはありません。すべては常に現場から上がってくるのです。ここでは、身をもってそれを学んだといえます。
20代の自身を検証して、挑戦を!
結婚を機に、約束通り食品メーカーを退職した後は、日系の小さな貿易会社に就職し、念願の英語を使う仕事に就きました。海外取引先との折衝やヨーロッパの見本市での輸入商品開拓……と、「やりがい」のある日々を送り、英語を活用するという自分の希望を実現できたという意味では良い職場でした。ただ3年ほど勤めた後、縁あって日系の不動産投資会社に転職しました。
当時はバブル経済の真っ只中。不動産投資会社での仕事は、海外の不動産を買い、それを日本企業へと仲介することでした。しかも、社長に直訴してカリフォルニア州パームスプリングスに海外駐在。日本から訪れるお客様に現地のホテルやゴルフ場を案内し、仲介物件のオペレーションをチェックするという非常に重要な仕事を担当した上に、一流ホテルで暮らすという夢のような生活をしていました。しかし、バブルは続きません。あえなく、この会社は事実上倒産したのです。
最初に入った会社は結婚により退職を余儀なくされ、その後はバブルの恩恵を受けていた貿易会社や不動産投資会社へと直感に従って転職をしてきましたが、この時期、「このまま転職ばかり続けていては、根無し草のジョブホッパーになってしまうのでは?」という危惧を抱きました。
私は20代に経験したことから仕事の楽しさに目覚め、一生仕事を続けていきたいと考えていましたので、改めて自身のキャリア形成の必要性を感じた結果、もう一度、「勉強する」という道を選びました。そして、経営学のMBAを修得するためにビジネス・スクールに入り、知識と知恵に磨きをかけるべくチャレンジを決意したのです。
キャリア形成をする3つのポイント
働く女性にとって、20代は自身のキャリアを形成するための礎となります。従って、今までお話ししてきた私の経験からも、現在20代の皆さまには、以下の3つのポイントを考えていただきたいと思っています。
1つ目のポイントは、自身が置かれている仕事において、常に「最善」を目指すこと。20代での私は、主に営業企画という営業マンを補助する現場にいましたが、売上をアップさせるための分析や仕組みづくりをブラッシュアップさせるために頑張ってきました。どんな仕事であれ、「今よりももっと良くする」ということを念頭に置いて考え、努力を重ね、精一杯働くことは、必ず次のステップにつながっていきます。
2つ目は、自分なりの「ブレない軸」を見つけること。これはとても大切なことだと感じます。私は食品メーカーを辞めた後、一貫して「海外」を見据えて働くことを前提に転職してきました。その結果、貿易会社と不動産投資会社での経験によって、英語力を含めて、海外(つまり異文化を持つ違う言語を話す人間たち)との交渉力を鍛えることができました。ましてや今は、転職によるステップアップが可能となっている時代。だからこそ、20代の皆さまには「ブレない軸」を持っていただきたいと考えています。
そして3つ目は、「仕事が好きかどうか」を問うこと。仕事が好きならば、これからも仕事を続けていくべきですし、同時に、30代、40代、そしてもっと先のキャリア形成を考えた上で、今の自分に何が足りないかを検証し、それを補っていくことを考える必要があります。私の場合は、勤めていた不動産投資会社が倒産した時点で、キャリア形成のために学校に戻り、「経営」を勉強する道を選びました。
自分の「軸」をつくり、可能性を広げる
さて、冒頭の話に戻りましょう。「転職が多いことはキャリア形成で不利か?」「20代で確立しなくてはいけないものとは何か?」「今後、どのようなスキルが必要とされるか?」という問いに対して、私は次のように考えます。
まず、転職について。これは前述したことからもお分かりになると思いますが、軸がブレていなければ複数回の転職をしても大丈夫だと私は思っています。いや、これからの時代は、ブレない軸をつくり上げることによって、転職によるステップアップを考えるべきだとも言えるかもしれません。
そして、20代で確立すべきもの。これは繰り返しになりますが、まさしく「自分の軸」を見極めることだといえます。自分はどう生きるのか、どう働いていきたいのかを、20代のなるべく早い段階で考え、確立させることができれば、社内でのキャリアアップも、転職によるステップアップも、その道筋を描くことが可能となり、より前向きに進んでいけるようになると思います。
そして、これから必要となるスキル。これは言うまでもなく「英語」と「ITリテラシー」でしょう。今後は、ますますボーダーレスになりますし、IT技術は日進月歩で進化していきます。特に英語については、単なる「語学屋」ではなく、ビジネスツールとしてマスターして、プレゼンテーションに活用ができるレベルまで伸ばす事が必要です。また、ITリテラシーについては目先の業務に向けてではなく、将来を見据えて、経営的な発想で活用できるレベルまでアップさせる事を目指していただきたいと思います。それによって、今後のキャリア形成の可能性は大きく広がっていくと考えられます。
ここまでが私のビジネス人生・第1フェイズで学んだこと。次回は、MBA取得後、いよいよ外資系企業に飛び込み、「オメガ」や「ジャガー・ルクルト」といったグローバルな時計ブランドで、マネジメント職を経験した中で身につけたことをお話ししたいと思います。
株式会社ココミーユ 代表取締役
男女雇用機会均等法の施行前である1983年に大学を卒業。日系大手食品会社に就職した後、日系企業2社に勤務。慶應義塾大学ビジネス・スクールにて経営学のMBAを修得した後、「ジャガー・ルクルト」や「オメガ」といったグローバルな時計ブランドを扱う外資系企業4社にて、マネージャー、ディレクター、事業責任者として活躍。2013年に長年の夢であった起業を目指して独立、日本初のベビーパール専門のジュエリーブランドを提供する株式会社ココミーユ(http://coco-mille.co.jp/)を設立。代表取締役社長として現在に至る。