――まず「ハービット」の開発に至った背景についてお聞かせください。
【望月】少子高齢化により、多くの業種で人手不足が深刻化しています。2040年の生産年齢人口は2025年比で約1100万人減少すると推計されています。このような環境下で企業が競争力を保ち、持続的な価値向上を目指すには、女性や高齢者のさらなる就労拡大に加え、働く人を資本と捉え、積極的に投資する「人的資本経営」の推進が求められます。
人的投資において、能力開発はもちろん重要ですが、その基盤となるのは健康です。健康の維持は、業務効率やモチベーションの向上、欠勤・休職リスクの低減につながります。当社は現在、約450の健康保険組合の基幹業務システムを担い、業界トップシェアとなっています。こうした実績を背景に、健康寿命の延伸や人的資本経営を支援するソリューションの提供を構想してきました。
産業医科大学
産業生態科学研究所教授
専門は産業衛生学。専業での産業医活動の後、2003年産業医科大学産業医実務研修センター所長、12年から現職。日本産業衛生学会理事長など産業保健に関する多数の役職を務め、現在は経済産業省健康経営推進検討会主査。
【森】生産年齢人口の減少は、これからの社会保障制度の在り方にも直結する社会課題です。解決するには、国民の皆さんが健康的に長く働き続けられることが大切なのは言うまでもありませんが、最も難しい点でもあります。
――何がネックになっているのでしょうか。
【森】健康になればベネフィットが得られることは誰もが理解しているものの、個人がお金をかけて取り組むとなると、関心が高い方以外には広がりにくいのです。そこで、企業が従業員の健康に投資する環境を整えようと、国は健康経営®(※)を提唱し、促進するための制度を設けてきました。実際、健康経営銘柄に選定された企業は株価パフォーマンスに優れ、利益率の上昇が見られるなど、健康と企業の発展の相関関係がうかがえる国内外のさまざまなデータも公表されています。こうした社会の状況を踏まえて、経営者をはじめとするリーダーは「健康投資は企業としてやるべきこと」という認識を強く持つ、そんなステージに移行する大事な時期を迎えていると思います。
【望月】情報開示において、従業員エンゲージメントを重要な指標とする企業が増えています。従業員が生き生きと働き、それぞれが最大のパフォーマンスを発揮できる環境をつくることが、企業にとってまずは大切なのではないでしょうか。
【森】健康経営優良法人のホワイト500に認定された企業の人事担当者が、求人の応募者数が増えたとおっしゃっていました。会社がどれくらい従業員の健康づくりを支援してくれるのか、従業員が企業の取り組みをちゃんと実感できているかは、雇用と密接に結び付いていると感じます。
※「健康経営®」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。
取り組みに欠かせないのは従業員の健康のための環境づくり
――どのような組織づくりがポイントなのでしょうか。
【望月】健康経営優良法人2025では、大規模法人部門と中小規模法人部門を合わせて約2万3000法人が認定されており、これは20年の約4倍に当たります。企業の意識が高まっている背景には、経営層がリーダーシップを発揮し、健康経営®に本気で取り組んでいる姿勢があると考えています。
【森】はい、それなしには何も進まないと言えるほど重要だと思います。ある調査では、同じ健康プログラムを提供しても、企業や部門ごとに参加率が大きく異なったという結果が報告されています。プログラムの良しあしではなく、職場に従業員の健康をサポートするという企業風土があるか、前向きに活用しようと思えるかが大事だということですね。
――「ハービット」の導入でどんな効果が期待できますか。
株式会社大和総研
代表取締役社長
1988年大和証券入社。2013年大和証券グループ本社執行役員、16年常務執行役、20年専務執行役。大和証券グループ本社の人事担当役員時代はCHO(最高健康責任者)として健康経営®の推進に注力。23年4月より現職。
【望月】コロナ禍を経て、健康への意識は大きく変化し、こうしたニーズに応える先進的で魅力的な健康管理アプリやプログラムも多数登場しています。「ハービット」は、それらを厳選し、総合的に提供するサービスです。
一つのIDで複数のアプリを管理でき、健診などの個人データと連携することで、従業員が主体的に健康管理に取り組める仕組みを整えました。これにより、一人一人の意欲や行動の促進が期待されます。また、企業・健康保険組合向けに、アプリの活用度や健康経営®の実践度を可視化するAI分析サービス「ハービットビュー」を提供します。「ハービット」と併用することで、効果的なPDCAサイクルの実現を支援します。今後、従業員の健康状態が労働生産性にどのような影響を与えるかについて、産業医科大学と連携し、指標の開発にも取り組んでいきます。
【森】われわれ研究者が扱うのは個人のデータが中心ですから、大和総研のように組織単位の膨大なデータをすでに持っていて、評価できるというのは非常に特徴的です。望月社長が「ハービット」は主体的な健康管理の実践を目指すツールであるとおっしゃったとおり、健康づくりにおいては「自分自身で健康的な生活をデザインしている」という実感がとても大切なのです。ぜひ、それを後押しするツールとして世の中に広がっていくといいですね。
【望月】森先生、引き続きご支援をお願いいたします。本日はありがとうございました。
