『モモ』の二次創作で書く喜びに目覚める
ちなみに私が読書感想文に開眼したのは、高校に入ってからです。課題図書はミヒャエル・エンデの『モモ』でしたが、感想文ではなくサイドストーリーを書きました。今でいう二次創作です。全体のテーマから全く外れて、ある設定を取り上げた。つまり一個の疑問だけ持って挑んで、一本釣りしたわけですが、それが学校の文集に載って、全校生徒の前で表彰されちゃった。そんな文章を読書感想文と認めてくれるなんて、味な先生もいたもんです。
その文章は、私のブログに掲載してあります。「読書感想文、こんなものでもいいのではないか」という提案として、最後に紹介させていただきます。
あー、忙しい、忙しい。
「お忙しくってなによりでございます」
だれだい、あんたは?
「はじめまして。時間貯蓄銀行より参りました」
なんだい、それは? 時間でも貸してくれるのかい?
「ええ、もちろんです。ただし、最初に預時していただかないといけません」
帰っておくれ。預ける時間なんかないよ。あー、忙しい、忙しい。
「みなさん、そうおっしゃいます。しかし、一日をつぶさに調べれば、5分や10分の端時間を、どなたも持ち余していらっしゃるもの」
ないったら、ないよ! さあ、帰った、帰った!
「なるほど。そういった寸分を惜しむ方には、我々どもタイム・コンサルティングを行っております。たとえば、この1日を26時間にするコースなど、いかがでしょう?」
なんだって? 1日は24時間と昔から決まってるんだ。寝言を言ってるんじゃないよ。
「確かに。しかし誰かが決めたやり方に、そのまま盲従していては、時間は増えません」
一理ある。2分間だけ聞こうじゃないか。要点を言ってくれ。
「さすが、お目が高い。我々は、昔から決められたとおりにではなく、1時間を55分とすることを提案いたします。1時間でやってきたことを5分だけ短縮して55分でやってしまう。それほど無理な話ではないでしょう。1時間を55分といたしますと、一日は26時間となる勘定に」
待ちなさい。今は1日24時間×60分で1440分だ。あんたのプランだと26時間×55分=1430分になる。この余った10分はどうする?
「さすが計算高い。いえいえ、誉め言葉でございます。その10分を我々時間貯蓄銀行に預金していただきたく存じます。お客様には1日につき2時間の時間が増えます。我々は、そこから生れる、ほんの端時間をお預かりしようと、ええ、そういう訳でございます。なにしろ世界中どこでも時間市場は、現物、先物、ともにかつてない買い手市場でございます。利息につきましても、このくらいには……」
おお!
「しかも複利でございますから、毎日10分ずつ積み立ててていただきますと、ほら、このとおり!」
すごい、時の蔵が立つんじゃないか? 一生のうちに使いきれるかな?
「いえいえ、そのための時間貯蓄銀行でございます」
と灰色の男は慇懃に答えた。


