同じ教員の読者からの異論反論に著者はどう答えるか

Q(ある教員からの声):小学1年生の担任ですが、授業中「トイレに行っていいですか」と頻繁に来る子どもが複数います。全体を授業に集中させるためにも、ここはある程度厳しく対応すべきでしょうか?

A【現役小学校教員・松尾英明】小学校では、「おもらし」で悩む親子が意外と多くいます。家での「おねしょ」も同様ですが、これらは心理的な不安が原因の一つとなっている場合が多いです。ただし、ほとんどの場合、年齢が上がるにつれて自然に解消されていきます。

ちなみに私の教室では、たとえ1年生であっても「おもらし」の問題が極端に少なくなります。なぜなのでしょうか。

この理由について、おもらしがどのような状況で起きるのかを考えてみてください。

まず時間帯について。これは授業中に起きる場合が圧倒的に多いです。そして、トイレに頻繁に行ける状況があれば、防ぐことができるはずです。では、それでも失敗してしまう子どもたちは、なぜすぐにトイレに行かないのでしょうか。

「おもらしが発生する学校、しない学校」の決定的違い

答えは単純で、「行きたい」と言えないからです(もちろん、身体の発達的な理由ですぐ出てしまう子どもも中にはいます)。それではなぜ、「行きたい」と言えないのでしょうか。大人の場合を考えてみればわかりやすいと思います。

例えば、研修中に話している最中の講師に対して、話を遮って「トイレに行きます」と堂々と伝える人はほとんどいないでしょう。それをするには相当な度胸が必要ですし、一般的には非常識だと見なされることもあります。普通は、講師の邪魔にならないよう、黙ってこっそりと離席するでしょう。そして、それを咎められることもほとんどありません。

つまり、授業中の教室では「トイレに行ってもいいですか」と教師に許可を求める学校特有の「常識」が、子どもたちにとって高い壁となっているのです。私はこれを「便所報告」と名付け、学校から撤廃したい「常識」の一つとして挙げています。

トイレに行きたがっているようすのピクトグラム
写真=iStock.com/S-S-S
※写真はイメージです

では、教室ではなぜ「便所報告」を義務付けているのでしょうか。このルールは特殊な一部の教室だけではなく、多くの教室で見られる一般的なものです。

その理由は単純で、質問者が心配されているように、授業中にトイレを利用して「エスケープ」されるのを防ぐためです。低学年から中学年では、トイレで遊ぶ子どもがいたり、高学年から中学生以降では友だちと連れ立ってトイレに行ってたむろしたりする行動が見られるからです。

しかし、こういった行動を取る子どもは全体のごく一部に過ぎません。ほとんどの子どもは、授業中にわざわざトイレに行くのは生理的な理由によるもので、どうしても用を足す必要があるからです。

つまり、一部の逸脱行動を取る子どものために、多くの子どもたちの活動が不必要に制限されているというのが、多くの教室の現状です。これは、便所報告に限ったことではありません。同様の理由で、多くの教室で様々なルールが全体に適用されているのです。

さて、最初の話に戻りますが、私の教室で「おもらし」が少ない理由は、「便所報告」を義務付けていないからです。トイレは、行きたい時に行けばよいだけの話です。もちろん、休み時間にはトイレに行くことを推奨し、休み時間を有効活用するように指導しています。休み時間にトイレに行かず、授業が始まった直後にトイレに行くのは望ましくないと教えています。それが続く場合には、休み時間に必ずトイレに行くよう指導をします。

しかし、「行ってはいけない」とは決して言いません。時には急にお腹を下すこともありますし、どんな「指導」でも生理現象をコントロールすることは不可能です。子どもの心理的な不安を理解すること。そのためには、あらゆる「指導」について、子どもを自分自身に置き換えて考える習慣が必要なのです。