業種特化の専門AIを開発・提供する株式会社メタリアルが50営業日連続で業種特化型AIエージェントサービスをリリースした。なぜ高精度なAIエージェントサービスを、これほどまでに高速に生み出すことができたのだろう。その開発力の源をCTO米倉豪志氏に聞いた。メタリアルの取り組みが示す、AIの可能性とは――。

なぜ50本ものAIを毎日リリースするのか? 驚異的な開発スピードの裏側

株式会社メタリアルは生成AIを活用した革新的な製品開発で注目を集めている企業だ。メタバースやWeb3などの最先端テクノロジーに精通し、AIを用いた自動翻訳市場では国内シェアNo.1(※)を誇っている。カスタマイズAIサービスの導入において法務、医薬、金融など2,000という幅広い分野への対応実績があり、6,000社以上の導入実績を持つ。

メタリアルは2025年4月に50営業日連続で、専門業種に特化したAIサービスをリリースするという大胆な取り組みに挑戦した。この背景について同社のCTO(最高技術責任者)米倉豪志氏はこう語る。

「生成AIサービスを50営業日で50本連続リリースするという取り組みは、メタリアルの圧倒的な業務効率化の可能性、特にAIエージェントの開発スピードを、お客様と社内に象徴的な形で伝えたくてやりました。実は、発想の始まりは社内向けなんです。当社には『T-4OO(ティーフォーオーオー)』という主力のAI翻訳サービスがあります。しかし、『T-4OO』に続く新たなサービス開発がなかなか進まない時期がありました。お客様に対して『業務効率化』を語る前に、自分達自身がAIによって飛躍的に業務の効率化ができることを僕はCTOとして示したかった。そのために、今回の50営業日毎日サービスをリリースするという異常なまでの方法をとることにしたんです。そしてそれはお客様に向けてのメッセージでもあります」

株式会社メタリアルの取締役CTO米倉豪志氏。国内最大級のモバイル検索サービス設計やデジタルクローン開発に携わり、データ圧縮技術の特許も持つ。
株式会社メタリアルの取締役CTO米倉豪志氏。国内最大級のモバイル検索サービス設計やデジタルクローン開発に携わり、データ圧縮技術の特許も持つ。

※出典=ITR「ITR Market View:対話型AI・機械学習プラットフォーム市場2024」翻訳市場:ベンダー別売上金額シェア<2024年度予測>

「常識にとらわれないAI」に企画から開発まで携わらせた

そうしてスタートしたプロジェクトは、マーケティング業務の支援「Metareal アナリティクス」、経済指標の分析「Metareal リサーチャー」、建築過程の報告書作成「Metareal コンストラクション」、保険詐欺の検知「Metareal フラウド」など、多種多様な業界に向けたAIサービスを横断的に生み出した。例えば、5月1日に発表された出版業界向けのAIエージェント「Metareal パブリッシング」は、「今売れるテーマ」「注目の作家」「類似書の動向」といった編集者の悩みを市場の膨大な情報から瞬時に解析し、複数の企画案を提案する。さらには、提案の裏付けとなるトレンドやリスク要因、推奨販売時期をまとめたレポートを自動生成する「痒いところに手が届く」機能も搭載。このような業界のニーズを的確にとらえた機能性は、AI自身に商品設計を行わせたことで開発できたと米倉氏は語る。

「出版業界に限らず専門的な業種の職務内容について、サービス開発チームはほぼ何も知らない素人です。それならば人間よりも迅速に情報収集でき、高度な分析ができるAIに企画段階から考えてもらったほうがよいんです。むしろ人間が持つ先入観や常識に縛られず、AIが持つ力を最大限生かして新しいアイデアを提案してくれます。我々が作ったのは、開発システムのベースとなる仕組みだけで、今回のサービスを開発したのはAIと言っても過言ではありません」

メタリアルが50営業日連続でリリースしたAIエージェントサービス。企画段階の各業界の課題抽出など、開発過程のほとんどにAIが携わった。
メタリアルが50営業日連続でリリースしたAIエージェントサービス。企画段階の各業界の課題抽出など、開発過程のほとんどにAIが携わった。

複数のAIをオーケストラのように協調させるAIツール

メタリアルのAIサービス50日連続リリースを支えたのは、米倉氏が開発した「Metareal Agents」と呼ばれるメタリアル独自のプラットフォームだ。このツールは、ChatGPT、Claude、Geminiなど複数の生成AIをオーケストラの楽器のように組み合わせ、それぞれの特徴と強みを最大限に生かす指揮者的な役割を担う。

「Metareal Agentsの主な機能は、それぞれの生成AIが得意とする業務を振り当てることです。複数のAIを連携させて高度で複雑なタスクを実行させることができます。もともとは医療業界の課題解決のために開発していましたが、改良を加えていくことで、僕が全く知識を持たない『アート』や『ワイン醸造』の業界の課題まで紐解けるようになりました。その時点であらゆる業界向けのAIサービスを開発できると確信しました」

Metareal Agentsの真骨頂は、業界特有の狭い領域に絞って情報を分析し、的確なソリューションを生み出す点にある。

「多くの人がイメージする無料版の生成AIで得られる情報は、実は大雑把なんです。例えると、仕事終わりに飲みに行く店の候補を聞いた時に、そのAIが『地球を見ているような』広範な視野で情報を提供するため、『某有名チェーン店』のような、今ほしい粒度ではない汎用的すぎる情報が回答されるようなものです。しかし、我々は複数のAIを連携させてそれぞれの真価を引き出すことで、『○○駅近くの焼き鳥が美味しくて日本酒が充実している店』というような精度で各専門業界の情報を得ることができます」

AIの本領は“時間”を生むための“モチベーション”を変えられること

メタリアルでは今後、一連の業種特化型AIサービスに「シゴトオワルAI」というキャッチコピーをつけ、あらゆる業界に向けて導入を提案していく。この名付けには、AIの導入が推進される世間の風潮に米倉氏が抱く課題感がある。

「生成AIの導入やDXをゴールとして捉えている企業が多いように感じています。現場に課題がないのに取り敢えずDXしようとして、重要ではない課題を探すような仕事が増えてしまっていたり、目的と手段が逆転したようなケースも見受けられます。それではかえって、仕事量は増すばかりです。我々が理想とするのはAIによって、これまで苦労していた仕事が終わることなんです。AIが膨大な作業を高速に終わらせることで、ビジネスパーソンのワークフローが削減されれば、人間だけができる仕事や本来の目的に集中できるはずなんです」

続けて、米倉氏は「仕事を始める時が一番人間のエネルギーを使う」と持論を語る。文書の作成でも、企画書の考案でも、ゼロから最初のアイデアを生み出す時に億劫な思いをしたことのある人は少なくないはずだ。逆に、部下や他人がドラフトした企画に対してチェックしたり評価したりする方が格段に仕事として楽であり、やる気が出やすいと感じた経験はないだろうか。

「だからこそAIに課題の抽出や企画を作らせることが有効なんです。僕がいつも昔からやっているのは、まずAIにやらせてみることです。完成した後に修正をするようにしています。仕事量とそこにかけるモチベーションの変化を起こすことこそ、AI導入の本質だと考えています」

業種特化型AIサービスの50日連続リリースは、単なる最新技術の公開ではなく、あらゆる業種におけるAI導入の好機到来といえるだろう。米倉氏は、AI導入を検討する企業に対して、「無料で利用できる機能だけでも、まずは使ってみてほしい」と強く勧める。

「人間にとって『時間』こそが最も貴重で高価な資源だと思います。シゴトオワルAIの導入効果は、何よりも時間を圧倒的に生み出すことにあります。これまでの仕事の常識がきっと変わるはずです」

AIが普及した先にある未来とは

「AIの普及はとめられない」と米倉氏は語る。では、私たちはどのようにAIと向き合うべきなのだろうか。

「AIが普及した先に僕が予想している課題は『人の忙しさは何も変わらない』ということです。人間は新しい技術で生産性が上がったとしても、さらに高い生産性を求めるようになります。インターネットやメールなどの革新的だった技術が普及した今でも、さらに効率が良い技術を求めるようになっています。だからこそ、すぐにでもAIに触れて、その可能性の大きさと限界を体感する必要があるのです。未知数なAIを後追いするのではなく、先回りしてAIを知りつくした主人となるための経験を積むべきです。これからの世界のスピードについていけるようになることが、AIを導入することの重要な目的の一つなのです」

AIを生み出せる能力やそれを自在に扱える能力を獲得していくことが「この先の未来には欠かせない」と米倉氏は語る。

メタリアルは「シゴトオワルAI」といった自社サービスの開発に加え、さまざまな企業の業務でAIを導入するためのコンサルティングを行っている。また、企業が社内でAIを開発できるようにするツールの提供や、支援も行う共創開発にも力を入れている。

生成AIエージェントサービスの50本リリースという異端的な発想の裏には、AIの未来を見据える確かな先見性が存在していた。