近年、企業の人手不足が加速している。この傾向は特に中小企業に顕著で、多くの経営者が経営課題のトップに「人材の確保」を挙げているという。打ち手としては賃上げなどの待遇改善が有効とされるが、実行しようとすれば社会保険料などの影響や、会社の負担増といった壁が立ちはだかる。そこで、中小企業向けクラウドサービスを展開するフリー株式会社では、福利厚生に着目した「給与を上げない賃上げ」を提唱。その背景や内容を同社の相澤茂氏に聞いた。

中小企業が悩む人材確保と賃上げの壁

――多くの中小企業にとって課題である「人手不足」について、背景や現状を教えてください。

働き手である生産年齢人口は年々減少しており、働き方や価値観の変化によって転職希望者も増え続けています。こうした背景から、2024年版中小企業白書では、最も優先度が高い経営課題として「人材の確保」を挙げた中小企業は46.6%にも上りました。

人手不足や人材流出は今後さらに拡大していくと見られており、当社にも人材確保に悩む中小企業経営者の方々から多くのご相談が寄せられています。

――人材確保に向けた打ち手のひとつに「賃上げ」があるかと思いますが、実現にはどのような壁があるのでしょうか。

中小企業庁の調査によると人手が不足していない企業は、その最大の要因に「賃金や賞与の引き上げ」を挙げています。その他の要因を見ても、「働きやすい職場環境づくり」や「福利厚生の充実」などが上位を占めており、人手不足の解消には賃上げやその他の待遇改善が効果的であることが読み取れます。物価高が続く近年は、特に待遇改善を目指して人材が流出しやすい傾向にあります。

しかし、中小企業にとって、定期昇給やベースアップを継続的に行っていくことは非常に困難です。中小企業の労働分配率は大企業に比べて高く、「賃上げ疲れ」という言葉が生まれるほど賃上げに疲弊している経営者も多くいらっしゃいます。

定期昇給やベースアップは、実施すれば社会保険料の負担も上がるため、会社の負担額が大きく増える一方で、従業員の手取りを増やす効果は小さくなってしまうという側面があります。そこで当社では、新たな選択肢として「第3の賃上げ」を発案しました。

相澤 茂(あいざわ・しげる)
相澤 茂(あいざわ・しげる)
フリー株式会社 エンパワーメントプロダクト事業部 福利厚生チーム 事業責任者

「給与を上げない賃上げ」という選択肢

――「第3の賃上げ」とはどういうものでしょうか。

福利厚生を手厚くすることで、従業員の可処分所得をアップさせ、賃上げと同等の効果を狙う「給与を上げない賃上げ」という選択肢です。福利厚生は一定の条件下であれば社会保険料などに影響を与えないので、会社の負担を抑えながら賃上げに近い効果を生むことが可能です。当社ではこれを「freee福利厚生」として、中小企業に導入していただきやすい形で提供しています。

具体的には、「ベネフィットサービス」と「借り上げ社宅サービス」の二つがあり、前者は従業員やその家族が飲食店やコンビニなどを特別価格で利用できるようにすることで家計の負担を軽減するものです。一つのIDにつき400円という低コストで導入でき、スマホやLINEで簡単に利用できる点が魅力のサービスです。後者は住宅手当や家賃補助と違い住宅を現物支給することで、会社のコストを削減しつつ、従業員の実質手取りを増やすことができる制度で、人によって年間約10万円~50万円の可処分所得増加効果が見込めます。

導入した企業の経営者の方々からは、「大企業と同じような福利厚生をこの価格で実現できるとは思わなかった」、「ベネフィットサービスの利用を通して従業員同士の交流が深まった」といった声が寄せられています。

――福利厚生の導入や見直しに関心を持つ経営者にメッセージをお願いします。

以前は、福利厚生といえば大企業だけにあるものというイメージでした。しかし、近年は中小企業でも導入が進み、福利厚生面の格差は縮まってきています。実際、当社のサービスは従業員10名以下の企業にも導入されています。

また、福利厚生は新卒社会人が就職先を選ぶ際の決め手として毎年上位に位置しています。経営者の間にも、賃上げや福利厚生を含めた人的資本投資は人材の採用・定着において重要であり、おろそかにしていると他社との人材獲得競争に負けてしまうという考え方が広まってきました。

賃上げについては、国も賃上げ促進税制などで中小企業の支援に取り組んでいます。加えて今は、福利厚生を低コストで充実させるという選択肢もあります。給与の引き上げと福利厚生の導入を二者択一とするのではなく、自社にとって必要かつ有効な施策として、双方をバランスよく推進する企業が一般的になりつつあります。

今後、多くの企業で福利厚生が充実したのちには、その内容が会社のカラーや従業員への思いを表現する手段となり、よりマッチした人材が集まるようになるでしょう。その未来を目指して、福利厚生サービスのさらなる充実を図っていきます。

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