資産価値に振り回されず
住宅は「使用価値」で考える

私は何年何十年も暮らす場所である住宅を、あまり近視眼的な投資目的や値上がり期待で選ぶべきではないと思う。

住宅というのは、「家族の幸せを育てる器」である。その住宅がどれだけ自分の家族を守れるのか、健やかに育てる器にふさわしいのか、楽しく暮らせるのか……そういった価値観がもっとも大切だと思う。

住宅を「資産価値」としてではなく「使用価値」として考えるのである。

「何年か後に売りたい」というのなら資産性は大切である。しかし、「子供が成人するまで育てる」ということを第一の目標にすれば、子育てを想定した住み心地や地域性が大切であって、資産価値の変動は二次的な検討項目になる。何十年か住み続けて子供を育てた後、不動産としての資産価値が何分の一に減価していても、ある程度は納得できるはずだ。 つまり、住まいの資産価値を守るよりも、「いかに使い(住み)こなすか」という使用価値を重視するのである。これからはそういう時代だといえる。

かつて、土地神話が生きていた時代は「何を買っても値上がりした」ので、住宅購入者がほぼ全員ハッピーになれた。あの時代に、日本人は「住宅は資産」という固定観念を染み込ませてしまった。今、住宅を買おうとする世代は、親からそのDNAをしっかりと受け継いでいる。多くの人にとって、住宅購入は人生における資産形成の一環なのだ。

ところが、住宅の資産価値が年月と共に減価していく時代には、いったんその固定観念を捨てたほうがいい。こういう時代に住宅を投資の一種だと考えると、かなり選択肢が狭まるからだ。東京なら港区や渋谷区などの城南エリア、関西なら阪神間の人気住宅地などに限定される。そういったエリアの住宅価格は必ず高額だ。限られた予算だと、選べる物件も極端に少なくなる。

そうではなくて、「値上がりを期待しないし、値下がりを極度に恐れない」というスタンスで、家族が健やかに暮らせる住まいを探す場合、エリアはうんと広がる。選択肢も桁外れに増えるだろう。

住まいの資産価値を重視して人気エリアで今買うのか、家族と楽しく暮らす使用価値を優先するのか、今後の住まい選びは価値観の主眼をどこに置くかによって大きく異なってくる。購入予算が潤沢ならば、迷わず都心の人気エリアにするべきであろう。現在、竣工しているマンションなどは最適。良質な物件なら、資産価値と使用価値の両方を得られるからだ。そうでない場合は、賃貸も含めて柔軟な思考に切り替えたほうがよい。

このように、アベノミクスは短期的に住宅市場を刺激しているが、今のところ効果は限定的。中長期で日本の不動産価格が上昇すると思われる兆候も見られない。今こそ、住まいを「使用価値」で考える時代である。

榊 淳司●さかき・あつし
住宅ジャーナリスト。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部を卒業。長年マンション分譲を中心とした不動産業に関わり、一般ユーザーを対象とした住宅購入セミナーを開催。テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍。主な著書に『年収200万円からのマイホーム戦略』『磯野家のマイホーム戦略』(共にWAVE出版)など。
オフィシャルサイト
http://www.sakakiatsushi.com/