過去最多を記録した子どもの自殺

福井県に限ったことではありません。全国学力テストのランキングが大きな注目を集めるのに象徴されるように、日本全国の学校が「学力を求める」姿勢になっています。その学力は、点数で表されるような学力でしかありません。そして、教員は「業務多忙」になり、「教育目的を取り違える」ことになっているのです。

そこで気になるのが、子どもの自殺です。厚生労働省は2025年1月29日、警察庁の統計に基づき2024年の自殺者数(暫定値)を発表しています。全体の自殺者数は減るなかで、小中高生だけは過去最高となる527人でした。そして10代までの自殺の原因・動機として最も多かったのは、学業不振や進路の悩み、友人との不和といった「学校問題」で、全体の44パーセントを占めていました。点数だけで評価する学力が子どもたちの大きな悩みにつながっていることが想像できます。福井県議会が指摘したのと同じ状況が全国的にあるということです。

さらに、こども家庭庁が2019年から2023年までに自殺した子について出席状況を調べたところ、44パーセントの子がきちんと出席していました。登校していたにもかかわらず、教員や学校側は自殺の予兆に気づけなかったことになります。

結局、教育委員会や学校に丸投げされる

こうした調査結果を受けて2025年1月29日の閣議後記者会見で阿部俊子文科相は、一人一台端末を活用した心の健康観察を実施すると述べました。児童・生徒それぞれにICT端末(ノートパソコンやタブレット)を持たせて授業で活用することで、従来の紙の教科書と黒板ではないデジタル活用の授業にしようという「GIGAスクール構想」を文科省は掲げています。一人一台端末の実現は2024年度を目標にしてしまいましたが、新型コロナウイルス禍でオンライン授業が注目されるなかで前倒しされ、じゅうぶんに利用されているかどうかは別として、いまでは子どもたち全員がICT端末を支給されています。その端末を使って心の健康観察までやろう、というわけです。

阿部文科相は、心の健康観察を端末で具体的にどうやるのか、までは示していません。子どもの自殺が最多になったという結果に対応策を考えていると言いたかっただけなのかもしれません。そうして教育委員会や学校に丸投げされるのは、いつものことです。丸投げされたからといって、教育委員会や学校が効果的な策をとれる可能性は低く、端末を使って子どもたちに「悩んでいることはありませんか」という問いに答えさせるくらいのものではないでしょうか。それで効果があるとはおもえません。

文部科学省 文化庁
文部科学省 文化庁(写真=Dick Thomas Johnson/CC BY 2.0/Wikimedia Commons

ただ、教員の仕事は増えることになります。ますます業務過多となり、先ほどの福井県議会の意見書にあった「教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている」状況を加速することにさえなりかねません。問題を悪化させる可能性もあるわけです。

ちょっと話を戻すと、子どもの自殺者の44パーセントがきちんと登校していたということは、56パーセントは不登校、もしくは不登校ぎみだったことになります。不登校と自殺の関連性についても、もっと議論されるべきです。