親子一緒に暮らせるまでのハードル

後日、親が名乗り出たらどうなるか。

その場合、すぐに親のもとに返すことはせず、親の暮らす地元の児童相談所が赤ちゃんを引き受ける。赤ちゃんを預け入れなくてはならないほど追い詰められた事情を考慮すると、育児放棄や虐待などにより赤ちゃんが危険にさらされる恐れがあるためだ。

親は地元行政の子育て支援や経済支援などを受けながら生活を整える。その間、赤ちゃんとは地元の乳児院(または里親)で面会することができる。愛着形成にとって重要な時期であると同時に、親を支える環境づくりにも行き届いた配慮が求められる。

そして、家にお泊まりするなどの練習をして、ケースワーカーや保健師が「だいじょうぶ」と判断したら、会議を経て、一緒に暮らす生活が始まる。どれくらいの日数で親子一緒の生活が始まるか、それはケースによって異なる。

2007年5月~2023年3月に熊本の「こうのとりのゆりかご」に預け入れられた170人の養育状況を見ると、2023年3月時点で家庭に引き取られたのは30人。特別養子縁組が成立したのが84人、乳児院などの施設に入所したのが31人、里親に委託されたのが13人、その他が6人だった。

安全に出産できる「内密出産」も開始

預け入れた人は、父親や祖父母のケースもあるが、母親が圧倒的に多い。予期せぬ妊娠をし、誰にも相談できないまま一人きりで出産する女性がたくさんいるのだ。

こうした女性を救うため、賛育会病院では「内密出産」の受け入れも始めた。これも、熊本市の慈恵病院に続く国内2例目の取り組みだ。病院の担当者だけに身元情報を明かし、病院で安全に出産することができる。50万円程度かかる出産費用は原則本人負担だが、女性の置かれた状況によって相談に応じるという。

内密出産は大きくは2つのケースが考えられる。女性が飛び込み出産に近い状況で内密出産をする場合、病院は赤ちゃんが産まれる前後で江東児童相談所に連絡(通告)することになる。児童相談所は生まれた赤ちゃんを一時保護し、可能な限り女性と面会して内密出産を選んだ理由や事情を尋ねる。

内密出産を希望する女性が出産前の早い段階から病院に相談する場合、女性が承諾すれば児童相談所も同席する。承諾がない場合は同席しない。