目指すのは「人と情報のマッチング」
自身を「小心者」と称する井上氏は、つねに3年先を見据えた経営戦略を立てるという。現在は、さらなる成長に向けて進めていた構造改革が結実しつつある。
「将来的な競争に打ち克つために、2009年ごろからProduct、Pricing、Promotion、Placementというマーケティングの4Pの見直しを行ってきました。10年ぶりにサイトの全面リニューアルを行い、サイトへの物件掲載にかかる課金も、掲載1件あたりではなく、問い合わせが発生した時点で掲載料が発生するシステムに変更。大手サイトでは初の成果報酬型に切り替えました」
サイトのリニューアルはほぼ完了し、2012年12月には、「HOME’S」の掲載物件が430万件を超えた。もちろん業界最多だ。国内の基盤を固める一方で、並行的に進めてきたのが海外進出である。昨年から、中国、タイ、インドネシアの3カ国で不動産・住宅情報サイトを開設。かつての日本と同じく、インターネットへの理解度がまだまだ低いため時間を要するというが、それも想定の範囲内。海外での基盤も着々と築いている。
さらに、情報のマッチング精度を高める次世代技術の開発も進行している。ユーザーが見た記事の内容、時間、前後に訪れたページなどから状況を解析し、そのユーザーが欲している情報を自動的に提供する、いわゆる人工知能のようなシステムである。
「私たちの戦略のキーワードは、データベースとコンシェルジュサービス。一人一人にぴったりの情報を提供するコンシェルジュサービスでグローバルカンパニーになりたい。不動産のほかにも、地域情報、金融商品情報、医療情報など、人と情報の最適なマッチングを行うことで、その人の人生を少しでも豊かにしたいというのが私たちの合言葉です」
ものは記憶を呼び覚ますトリガー
創業以来、寝る間も惜しんで仕事に邁進してきた井上氏だが、現在大切にしているものが家族と過ごす時間だという。
「土日のどちらか一日は、家族と過ごす時間を確保するように心がけています。おそらく家族には『足りない』って思われているはずですが(笑)。ただ時間は長さより濃さのほうが大切だと思うので、どういう会話をするか、一緒にどんな経験をするかということをよく考えています。記念日も欠かさずイベントをやりますよ」
結婚10周年の節目には、夫婦二人でペアの腕時計を購入した。何かしらおそろいのものを、と井上氏から提案したという。
「10年間ありがとう、この先もよろしく、という思いですね。同じ時計をしていると家族の絆みたいなものが感じられていいなと思ったんです。記憶ってだんだんと薄れてしまいますが、ものがあればその当時のことを思い出すじゃないですか。記憶を呼び覚ますトリガーというか。ものを見るたびに『あの時すごく幸せな気持ちだったな』って思い出がよみがえる。だから記念日には旅行や食事だけでなく、なるべくプレゼントも贈るようにしていますね」