黒い瞳は「可愛い」「保護してあげたい」という感情が湧き上がる

さて、もう一つヒトの瞳について知っておいていただきたいのは、ヒトの虹彩では、両側が白色になっているということです。これは他の、少なくとも哺乳類では見られない構造です。瞳の色は日本人はほとんどが黒、欧米のヒトは茶色などの場合が多いのですが、白色と有色の部分の境目は連続しており、単に白色の部分には色素が沈着していないだけなのです。

なぜヒトの虹彩だけがこのような形態になったのか、現在最も有力視されているのは、「白い部分があると、その個体がどちらを見ているのかが明白にわかり、目の動きによって個体間でのコミュニケーション、たとえば、『お前は先回りをして獲物の前方で待ち伏せしろ』とか『よし、行くぞ!』といった内容の伝達が格段にレベルアップされる」という説です。情報伝達を盛んに行い、集団で目的達成にあたるという方向に進化したヒトという動物では、「白い部分」は重要な形質だったのでしょう。

最後に、ヒトでは、幼児の黒い瞳は成人の場合と比べ、顔の中でよく目立つ、大きな比率を占めます。このような、ヒトに共通して見られる特性は、「口元の割合の小ささ」などとも併せてキンダーシェマ(幼児構図)と呼ばれ、そのキンダーシェマを目にすると、「可愛い」、「保護してあげたい」という感情が湧き上がる生得的(本能的)脳内特性を有していることもヒトを対象にした研究で知られています。

赤ちゃんのクローズアップ
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イヌの瞳がオオカミより黒い理由とは

さて、イヌの瞳がオオカミより黒い理由です。東アジアのオオカミが、遺伝子の小さい変異を伴いながらイヌになっていく過程で起こったこと。その具体的な出来事の内容については諸説ありますが、以下のような状況があっただろうという点については大方、一致しています。

1万年以上前、ヒトは狩猟採集生活をしていたわけですが、「イヌ祖先」オオカミは狩猟するヒトたちについていき、対象となる動物を見つけると、吠えて、狩猟の成功に結果的に役立つこともあったのではないでしょうか。

夜、ヒトがベースキャンプで寝ているとき、危険な猛獣が近づいたとき、「イヌ祖先」オオカミが吠え、ヒトが目を覚まして危機を免れた、といった場面も想像できます。

そんなことが最初は偶然に起き、ヒトは、「イヌ祖先」オオカミが自分たちの近くにいることが有利であると考え、餌を与えたり、親和的な姿勢で接したりして、自分たちの近くにとどまるように振る舞ったのではないでしょうか。

いっぽう、「イヌ祖先」オオカミの中にも、遺伝的にさまざまな特性の個体がおり、餌をもらうことを速やかに学習し、ヒトの近くにとどまることが多かった個体もいたでしょう。

そういった個体は、ヒトと利益を分かち合うことによって、「イヌ」という、いわば新しい亜種になっていったと考えられるのです。その後、イヌという亜種は、品種改良によって、チワワからセントバーナードまで、実にさまざまな外見に分かれていったのですが……。