AI社会で求められる5つの力
そのうえで、昨今の教育学や経済学の研究で、重要性が強調されているのが「非認知能力」(Non-cognitive skills)です。これはテストの点数やIQのように数字で測れない“人間力”を指し、子どもの将来の収入や幸福度、人間関係の質に大きな影響を与えると多くの学者が報告しており、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン博士も「非認知能力こそが学業や就労だけでなく、人生の成功を左右する重要な要素である」と断言しています。
以下で、代表的な5つの非認知能力を紹介します。どれもAI社会においても選ばれる人材に共通するであろう能力です。
1.愛される人格
周囲に愛され、好感を持たれる人間性は、あらゆる場面でプラスに働きます。
Harvard Business Reviewに掲載された、トロント大学のロトマン経営大学院とデューク大学のフークアビジネススクールによる、4つの異なる組織を対象とした研究では、好感度の高い人材は、そうでない人と比較して、昇進の機会が増え、より多くのキャリア開発機会が与えられる傾向が示されています。
また同研究において、好感度の高い人材は、アイデアや提案が前向きに受け止められ、失敗に対しても比較的寛容な態度で接してもらえることが報告されています。これからのAIが発達していく社会においても「この人と一緒に仕事がしたい」「この人と仲良くなりたい」と思わせる魅力が重要でありつづけることは言うまでもありません。
2.ビリーフ――「正しい」と信じてしまっていること
ビリーフとは、本人が「正しい」と信じてしまっている根本的な思い込みを指します。「どうせ自分は失敗する」というネガティブなビリーフを持っている人は、新しい挑戦を避けてしまいがちです。
逆に「失敗しても学びがある」「失敗は勇気を出して挑戦した証拠」というようなポジティブなビリーフが形成されていれば、挑戦を恐れずにどんどん成長していくことができます。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授による「成長思考(グロース・マインドセット)」の研究でも、学習者が「努力すれば能力が伸びる」と信じているほど成績や自己肯定感が高まりやすいと示されています。
これはAI時代の革新的な学習環境でも同様で、ポジティブなビリーフを持っているほど変化に適応しやすいと言えるでしょう。
3.コミュニケーション能力
AIが高度な言語処理を担ってくれる時代だからこそ、「人間らしい対話」が相手に与える安心感や共感の力はむしろ際立ちます。
マサチューセッツ工科大学によって、21の組織の約2500人を対象に最長6週間にわたって、チームのコミュニケーションパターンについて調査が行われました。その結果、チームパフォーマンスの変動の35%は単に対面コミュニケーションの量だけで説明できることが分かりました。
また、声のトーン、ボディーランゲージ、対面での会話環境、ジェスチャー、会話量、傾聴度、会話の割り込みなどのコミュニケーションパターン全体が、他すべての要因(個人の知性や性格、スキル、議論の内容など)を合わせたものと同じくらいチームの成功に大きな影響を与えることが明らかになっています。
子どものころから親子の対話を重視し、「どうしてそう思う?」「相手はなんでそう考えたのかな?」と問いかけながら考えを引き出すことで、聞く力・伝える力・共感力といった総合的なコミュニケーション能力が育ちます。
AIがどれだけ進化しても、人間と人間の“情緒的なやりとり”は不可欠であると多くの研究者が指摘しており、今後もこの能力の需要は高まると予想されます。
4.目標達成スキル
目標達成スキルは、自己効力感を高めるうえで非常に重要です。AIの進化によって、単純作業やデータ分析が自動化される半面、「そもそも何を目指すべきか」「どんな価値を創出したいのか」などの目標自体を決めるのは人間の役割になります。
また、心理学者のアンジェラ・ダックワースが提唱する「グリット(やり抜く力)」の研究でも、目標に向けて努力を継続する力が学業やキャリア形成の成否に強く関連していることが示されています。
AIに情報整理を任せたとしても、最後に行動を決断し、継続するのは本人の意志です。小さな成功体験の積み重ねが子どもの「自分ならやれる」というビリーフを強化し、さらに大きな挑戦へと進む原動力になります。
5.考える力
AIに任せられる領域が増えるほど、人間には「問題を発見する」「本質を見抜く」「倫理的な判断を下す」といった高度な思考力が求められます。
AI倫理の権威者たちは「いずれAIが導き出す最適解を、人間の倫理観や価値観で判断・修正するプロセスがますます重要になる」と主張しています。
論理的思考やクリティカルシンキングだけでなく、想像力や発想力も“考える力”の一部です。
子どものころから「すぐ答えを教える」のではなく、「なぜ?」「どうすれば?」と問いを投げかけて自分で答えを導けるようサポートすることで、考える力は格段に伸びます。
AI時代に必要とされるのは、機械にはない“人間ならでは”の思考の柔軟性と創造性です。

