“ギリギリで合格”すると学力が伸びにくい
このとき話題になるのは、「比較的入りやすい学校に上位で合格する」のと「入るのが難しい学校に下位で合格する」のとどちらが良いかということです。「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉がありますが、教育経済学の研究によれば、この言葉は真実であることがデータで示されています。「小さな池の大魚効果」と呼ばれています。
ある学校の中で上位(鶏口)にいる子は、追い風を受けて学力が伸びやすくなります。その理由はすべてが解明されたわけではありませんが、どうやら自信を持てることが要因のひとつになっているそうです。気分良く勉強していくうちに、成績が伸びていくということです。
一方で、ギリギリで合格し、その学校の下位(牛後)に位置すると、向かい風にあい、学力が伸びにくくなります。鶏口の逆で、自信を喪失してしまうことが理由のひとつです。
もちろんこうしたことは平均的な傾向であって個人差はあります。上位で入学したはずなのに、どんどん成績が下がっていく子もいれば、ギリギリで合格したのにどんどん他の子を追い抜き、上位に駆け上がる子もいます。どちらのケースでも、入学後も勉強を続ける意欲や心のあり方が問われています。
「難関校に入れれば、それでいい」は危険
「小学校6年間の成功を占うのは、中学入学時点での成績ではなく、中1最後の期末試験の成績」という言葉は、開成学園で校長をしていた柳沢幸雄先生(現・北鎌倉女子学園学園長)が語ってくださいました。中学に入った時点での成績より、最初の1年間で生活と学習のリズムをつかめているかどうかが大事ということですね。
第一志望の中学に入ったことに満足して歩みを止めてしまうわけでもなく、第一志望ではない中学に入ったことで絶望し、学びをやめてしまうわけでもなく、中学受験を経て身につけた学習習慣を、坦坦と維持できるかどうかが大事ということです。
ギリギリの合格でも、入った後に燃え尽きてしまうような合格か、ギリギリで入れたうれしさを胸に入学後も努力しようと心躍らせて入るような合格かで変わってくるということです。「難関校に入れればそれでいいから……!」と、親が頑張らせて無理をして入れると、苦しい環境の中で子どもが燃え尽きてしまいます。
逆に、本人が自分の全力で受験に臨み、なんとかつかみ取ったギリギリの合格で、「ここで頑張りたいんだ!」と燃えている状態で入学できれば、その後も活躍できます。事実、ギリギリの点数で合格したにもかかわらず、入学後、学校で積極的に活動し、学業でも学校生活でも大活躍している子の話を聞きます。そういう子は受験勉強を通じて、すでに中学校での生活の準備ができているのです。