「戦う」「逃げる」「固まる」の反応がしやすい状態

私たち人間が生きていく上でもっとも大切なのは、命を守ること、つまり、安全・安心であるかどうかです。命が脅かされている状況で食事をしたり、睡眠をとったり、運動をしたり、ましてや遊んだりすることはできません。私たちが命の危険を感じたときにとる行動は、「戦う(fight)」「逃げる(flight)」「固まる(freeze)」のどれかです。これらの反応は、先ほど触れた「脳幹」が担っています。

脳幹は、呼吸や心拍、消化、体温調節など人間が生きるために欠かせない仕事をしています。脳幹にはこのように、大脳の指令を待たずに生命維持に関与できる役割があります。それに対して大脳は人体の司令塔であり、より高次の機能を担っています。人間がものを考えたり記憶したり、感情のコントロールをしたりする働きは、大脳が行っています。

先ほど、原始反射は「脳幹」による反応だとお伝えしました。言いかえれば原始反射は、この脳幹によってコントロールされています。脳幹は脳にとっては家でいうところの土台のようなもの。この土台がしっかりと育って初めて、大脳が育つのです。

原始反射が残っている子どもが多いということは、土台である「脳幹」がきちんと育っていないということです。そのため、あらゆる場面で、大脳の反応ではなく、生命を維持するための脳幹の反応のほうが優先されてしまいます。つまり、「戦う」「逃げる」「固まる」のいずれかの反応をしやすくなっている状態なのです。

現代の子供は「無駄な動き」がなくなった

原始反射が残っているということは、戦うべきではないとき、逃げなくてもいいとき、固まらなくてもいいときでさえも、そのような反応をしてしまうことを意味します。子どもたちが、いかに生きづらい状態にあるか、想像ができるのではないでしょうか。

では、なぜいま、原始反射が残っている子どもが増えているのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、1つには生後発達期の神経系の問題が考えられます。

少し難しい話になりますが、出生直後、赤ちゃんの神経系において、過剰なシナプスの形成が起こります。シナプスとは神経細胞と神経細胞の接点であり、神経ネットワークの要かなめとなるものです。その後、環境や経験を重ね、成長とともに必要なシナプスが残り、不要なシナプスは消失します。

この現象を「シナプスの刈り込み」といいます。大切なのは、どのシナプスが必要とされ、どのシナプスが不要とされるかのセレクトです。

ここからはあくまでも仮説になりますが、昔の子どもに比べて現代の子どもは、このセレクトがうまくいっていないのではないかと考えられます。なぜ、セレクトがうまくいっていないのか。その理由に、現代の子どもが「無駄な動き」をしなくなってきたことがあるのではないでしょうか。

子どもたちの輪
写真=iStock.com/JGalione
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