少子化の原因は女性のせいではなく、社会不安の問題

当時と違い、いまは多様な生き方や価値観が許容されるようになりました。大人になったら親は親の人生、子は子の人生。親が子の人生を尊重することにつながりますから、そうした考え方が広がってきているのはとてもいい傾向だと思います。

また子どもを産んでも、その子が孫を産んでくれるとは限りません。不産を選択する子どももいれば、LGBTQの子どもも海外で暮らす子どももいますから、少子化は否応なく進行するでしょう。

いまの少子化の原因は、将来の社会に対して期待が持てない男女が増えているからだと私は考えています。子どもにかかるコストは高くなっていますし、産んだら子育て罰がどっと押し寄せてきます。子どもを産み育てることに希望が持てる状況ではありません。

なぜ母親は働くだけで罪悪感を持たなくてはいけないのか

母親になると罰ゲームかってぐらいの追い詰められ方をされますから、産みたくてもとても産める状況じゃない。浜田敬子さんの著書『働く女子と罪悪感』を読むと、母親は働くだけで罪悪感を持たなきゃいけないのか、働く父親は持たないだろうにと、つくづく思います。

上野千鶴子『マイナーノートで』(NHK出版)
上野千鶴子『マイナーノートで』(NHK出版)

それだけでなく、産まない選択肢がちゃんと許容されるようになってきました。私みたいなおひとりさまが、例外とは言えないほどに増えましたから。

私には出産・子育てというパーツが人生からすっぽり抜け落ちています。そんな私が言うのも何ですが、親になることを選んだ人には「子どもに感謝せよ」と言いたいです。

子どもはあなたの80年ぐらいの人生の約4分の1もの時間を埋めてくれる存在。しかもあなたに生きる理由を与えてくれる存在です。こんな存在はほかにないですよね。趣味や仕事があるじゃないかと言ったって、それらは子どもほど切実な思いで向き合えるものじゃありません。

ですからどんな子どもだろうが、子どもがどんな生き方をしようが、親は子に感謝こそすれ、文句を言えた義理じゃない。私はそう思います。

構成=辻村洋子

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者

1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。